平成16年度テクニカルエンジニア(ネットワーク)午後Ⅱ問2

問2 コンテンツ配信システムの構築に関する次の記述を読んで、設問1~4に答えよ。

Y社は、東京と大阪の2か所のインターネットデータセンタ(以下、IDCという)を運営するサービス事業者である。Y社では、顧客のコンピュータシステムを預かり、稼働監視や運用管理などを行うハウジングサービスを提供している。
このたび、Y社では、事業が軌道に乗ってきたので、事業拡大の方策を検討することにした。近年、ADSLやFTTHなどのブロードバンドサービスが急速に普及してきた。これに伴い、今後、映像コンテンツ配信サービス(以下、映像配信サービスという)のビジネスが期待できるという判断から、Y社ではインターネットを利用した映像配信サービスの事業化を決定した。

〔システムの方向付け〕
事業化に当たって、システム化を検討するように指示されたH課長は、ネットワーク構築担当のI係長と、システムの方向付けについて打合せを行つた。次は、システムの方向付けに関するH課長とI係長の会話である。
H課長:今回、新事業としてインターネットを利用した映像配信サービスを開始することになった。映像配信サービスの提供は、図1に示すコンテンツ配信システムの構成で行うことができるのだろうか。


I係長:映像配信の方法には、【 a 】型とストリーミング型があります。当社では、ストリーミング型の映像配信サービスを計画しています。図1の構成では、映像情報を含んだパケットの遅延、損失及びジッタによって、映像の乱れ、瞬間的な停止、音声の途切れなどが発生し、サービス品質が低下します。
これらを防止するためには、 トラフィック制御やネットワーク構成面の配慮が必要になります。
H課長:トラフィック制御の仕組みには、どのようなものがあるのだろうか。
I係長:IPネットワークでのトラフィック制御の標準技術に、RSVP (Resource Reservation Protocol)とDiffserv(Differentiated Services)があります。図2に、RSVPによる帯域予約のためのメッセージの流れを示します。RSVPは、図2に示すメッセージで経路上の各ルータに帯域を予約し、ルータによってパケット転送帯域の制御が行われるようにします。RSVPでは、まずサーバがPCあてにPathメッセージを定期的に送信します。Pathメッセージを受信したPCは、資源予約のためのResvメッセージをサーバあてに送信します。
Resvメッセージは、Pathメッセージの転送経路を逆にたどるように転送されます。これによって、帯域を確保するための情報が経路上の各ルータに設定され、【 b 】から送信される映像情報を含んだパケットが、予約された帯域で転送されることになります。

H課長:分かった。それではDiffservはどのような方式なのかな。
I係長:Diffservは、RSVPのような帯域制御ではなく、【 c 】の標準方式です。図3にDiffservを利用したネットワークの構成例を示します。【 c 】は、IPヘッダのTOSフィールドを再定義したDSフィールドのビット情報に基づいて行われます。このビット情報に対する制御ポリシは、任意に設定できることになっています。同一の制御ポリシをもつネットワークは、DSドメインと呼ばれます。

H課長:今回検討するシステムに、 これらの方式を適用できるのだろうか。
I係長:RSVPでは、各ルータが、転送するパケットに対して帯域を割り当てる制御を行うことになるので、ルータに加わる負荷の問題があります。その問題があるので、RSVPはISPのような大規模ネットワークヘの適用が難しいと言われていて、サービスとして提供されていません。
H課長:その点について、Diffservはどうなのか。
I係長:Diffservを利用できるISPが少ないので、残念ながらこの方式も利用することは難しいと思います。仮に、各ISPでDiffservを利用できるようになっていても、転送されるパケットが複数のISPを経由する場合には、ISP間でのトラフィック制御に関するポリシの統一が必要になってしまいます。
H課長:それでは、インターネットを利用して、高品質の映像配信サービスを提供することは無理なのだろうか。
I係長:いいえ、ほかの方法を使えば無理ではありません。RSVPやDiffservの利用による提供は困難ですが、コンテンツ配信ネットワーク(以下、CDNという)を構築すれば、サービス品質が低下する要因を少なくできるので、高品質の映像配信サービスを提供できます。
H課長:そうか。CDNについて、具体的に説明してくれないか。

〔CDNの目的と仕組み〕

CDNの目的と仕組みについて、 I係長がH課長に説明した内容は、次のとおりである。
CDNは、VOD(Video On Demand)のようなストリーミング型の映像配信サービスを、インターネットを利用して、高いサービス品質で提供するためのネットワークである。インターネットを経由してコンテンツを配信し、視聴者がPCでリアルタイムに再生する場合、 トラフィックや負荷の集中によってサービス品質が低下することがある。その要因となるのは、ルータ、スイッチングハブ、サーバ、回線などのネットワーク構成要素である。CDNを利用すれば、これらが要因となって発生するサービス品質の低下を抑止できる。
CDNは、次の二つの要素で構成される。

① オリジンサーバ
② キャッシュサーバ
③ コンテンツ複製ネットワーク

オリジンサーバは、オリジナルコンテンツの登録、管理などを行い、コンテンツ複製ネットワークを使用して、キャッシュサーバにコンテンツを複製する機能をもつ。
キャッシュサーバは、オリジンサーバが複製したコンテンツを保管し、視聴者にコンテンツを配信する機能をもつ。コンテンツ複製ネットワークは、オリジンサーバに登録されているコンテンツをキャッシュサーバに複製するために使用される。コンテンツは、キャッシュサーバから配信されるので、(ア)キャッシュサーバが設置されたISPの利用者に対して、高品質の映像配信サービスの提供が可能になる。

H課長:CDNの目的と仕組みは理解できた。映像配信サービスを提供するためには、CDNを利用した方がよさそうなので、CDNを利用したコンテンツ配信システムを具体化させてくれないか。

H課長の指示を受けて、 I係長は、コンテンツ配信システムの構成、コンテンツ複製方式、映像配信サービスの提供方式などをまとめた。

〔コンテンツ配信システムの構成〕
図4に、コンテンツ配信システムの構成を示す。

I係長がH課長に説明したコンテンツ配信システムの構成は、次のとおりである。オリジンサーバは、Y社のIDCの中で最も充実した設備をもつ東京IDCに設置する。東京IDCは、ISP事業者であるA社とB社のバックボーンネットワークのコアルータに直接接続されている。バックボーンネットワークとは、ISPが所有するPOP(Point Of Presence)やNOC(Network Operation Center)などを広帯域の回線で接続するネットワークである。キャッシュサーバは、東京IDCのほかに、Y社が所有する大阪IDCにも設置する。キャッシュサーバを多く設置することによって、高品質な映像配信サービスを利用できる視聴者の増加につながる。そこで、そのほかに全国8か所の他社IDCのハウジングサービスも利用して、キヤッシュサーバを設置することにした。
利用するIDCの選定に当たっては、サービス品質の向上、安全対策及び高品質なサービス提供エリアの拡大を目的として、IDCがもつ設備に加えて、ISPへの接続形態も併せて調査した。

H課長:当社のIDCを有効活用できるので、良い案だと思うよ。ところで、Webサーバは、どのような働きをするのかな。
I係長:Webサーバでは、課金管理、会員管理、キャッシュサーバの選択、サービスメニューの表示などを行います。
H課長:分かった。オリジンサーバとWebサーバは、それぞれ1台でよいのか。
I係長:オリジンサーバには、安全対策と、コンテンツの複製量やサービスの増加に対して柔軟に対応できるような構成が必要です。サービスを利用するときには、PCがWebサーバに接続されますので、Webサーバにはオリジンサーバと同様の安全対策と拡張性の確保が必要になります。これらの条件を基に、図5に示すオリジンサーバとWebサーバの構成を考えました。サービスの開始時は、オリジンサーバ、Webサーバとも、それぞれ2台構成がよいと考えています。

H課長:キャッシュサーバの構成は、どのように考えているのかな。
I係長:キャッシュサーバも、安全対策と拡張性の確保を考慮して、図5と同様に各サーバとRAID装置をFCSWで接続するネットワークを導入するとともに、 LBによって負荷分散させる構成を考えています。このFCSWで構成されるネットワークは、【 d 】と呼ばれます。サービス開始時は、各IDCに設置するキャッシュサーバも、2台構成にするのがよいと思います。
H課長:分かった。

〔コンテンツ複製方式〕
I係長が説明したコンテンツ複製方式は、次のとおりである。
オリジンサーバからキャッシュサーバにコンテンツを複製する際には、IPマルチキャスト(以下、マルチキャストという)通信を利用する方式が考えられる。マルチキャスト通信は1対多で行われる通信であり、マルチキャスト【 e 】のメンバとなっているホストに対して、同時に配信する方式である。この方式によって、キャッシュサーバに効率良くコンテンツを複製できる。しかし、現状では、必ずしもISPがマルチキャスト通信サービスを提供しているわけではないので、ISP経由で複製するには、特定の相手と1対1で送受信するユニキャスト通信で行う必要がある。そのためには、オリジンサーバがそれぞれのキャッシュサーバに対して、個別にコンテンツを転送しなければならない。各IDCのLANは、100Mビット/秒でISPに接続されている。ネットワークの遅延、プロトコルオーバヘッドの影響、及びサーバの能力を考慮して(イ)実効転送速度をある値に仮定したとき、1台のキャッシュサーバに3×109バイトのコンテンツを複製する時間は、計算上10分に抑えられる。したがって、10か所に設置するキャッシュサーバに複製する場合でも、運用上問題にならない。これらの理由から、ISPのネットワークを使用して、ユニキャスト通信によるファイル転送処理によって、コンテンツを複製する。

〔キャッシュサーバの選択方式〕
今回検討したコンテンツ配信システムは、VODのような映像配信サービスを提供するためのものである。コンテンツはキャッシュサーバによって配信されるので、高品質の映像配信サービスを提供するためには、PCに配信するキャッシュサーバの選択方式が重要になる。
次は、キャッシュサーバの選択方式についての、H課長とI係長の会話である。

H課長:どのようなキャッシュサーバの選択方式があるのかな。
I係長:IPアドレスによる選択方式と、パケット転送時間の計測による選択方式があります。
H課長:詳しく説明してくれないか。
I係長:キャッシュサーバの選択は、Webサーバで行わせます。映像配信サービスを利用するときに視聴者が使用するPCは、最初にWebサーバと通信を行います。IPアドレスによる選択は、グローバルIPアドレスを管理する組織情報を利用して行われます。PCからサービスを要求されたWebサーバは、受信したパケットの送信元のグローバルIPアドレスを基に、サービスの提供に適したキャッシュサーバを選択します。一方、パケット転送時間の計測による選択は、PCが計測したパケット転送時間を基に行われます。PCからサービスを要求されたWebサーバは、PCに対してキャッシュサーバとの間のパケット転送時間の計測を指示し、PCが計測した結果を基に、最適なキャッシュサーバを選択します。
H課長:今回は、どちらの方式を採用する予定なのか。
I係長:IPアドレスによる選択方式では、キャッシュサーバが設置されていないISPの利用者に対して、サービスの提供に最適なキャッシュサーバを選択することができないという問題があります。一方、パケット転送時間の計測による選択方式では、視聴者がどのISPの利用者であっても、(ウ)最も品質の高い映像配信サービスを提供できると予測されるキャッシュサーバを選択できる利点があります。ですから、後者の方式を採用する予定です。

〔映像配信サービスの提供方式〕
図6に、視聴者への映像配信サービスの提供方式を示す。ただし、図6には、キャッシュサーバの選択方式は記述されていない。



I係長が図6に基づいて説明した内容は、次のとおりである。

視聴者が映像配信サービスを利用するときに、PCでは、①を送信し、④によってWebサーバのグローバルIPアドレスを得る。次に、Webサーバに対して、⑤を送信する。Webサーバは、⑤を受け付けると、サービスメニューをPCに表示させるとともに、キャッシュサーバとの間のパケット転送時間を計測するための【 f 】を、PCに送信する。PCは、受信した【 f 】を実行させて、(エ)キャッシュサーバとの間の実効転送速度を計測する。PCは、計測後に結果をWebサーバに送信する。

Webサーバは、PCが計測した結果の中で、実効転送速度が最大のキャッシュサーバをコンテンツの配信元に選択し、そのキャッシュサーバのグローバルIPアドレスをPCに送信する。視聴者が、PCに表示されたメニューの中からコンテンツを選択すると、PCは、通知されたグローバルIPアドレスをもつキャッシュサーバに⑦を送信し、⑧を受ける。
H課長はI係長の説明を聞き、CDNを利用したコンテンツ配信システムを構築することによって、高品質の映像配信サービスを提供できると判断し、この案で進めることにした。

設問1 本文中の【 a 】~【 f 】に入れる適切な宇句を答えよ。

設問2 トラフィック制御技術に関する次の問いに答えよ。

(1) RSVPの帯域予約は、Resvメッセージだけではなく、Pathメッセージも利用される仕様になっている。その理由を、35字以内で述べよ。
(2) 図2で、ルータの能力が同等とすると、負荷の問題が最初に発生するのは、コアルータと考えられる。その理由を、25字以内で述べよ。

(3) Diffservが図3の構成で運用される場合、境界ルータでDSフィールドのビット情報の変換が必要になる。その理由を、40字以内で述べよ。

設問3 〔CDNの目的と仕組み〕に関する次の問いに答えよ。
(1) インターネットを利用した、VOD以外のストリーミング型の映像配信サービスを、15字以内で述べよ。
(2) 図1で、ISP-Dの利用者が映像配信サービスを受ける場合に、ISP-Aの利用者と比較して、サービス品質が低下する。その要因となるネットワークの構成要素を三つ挙げ、それぞれ15字以内で述べよ。
(3) 本文中の下線(ア)の理由を、パケットの流れに着目して、40字以内で述ベよ。

設問4 今回構築するコンテンツ配信システムに関する次の問いに答えよ。
(1) 他社DCの選定時に調査した内容を二つ挙げ、それぞれ25字以内で述べよ。

(2) 本文中の下線(イ)で仮定した実効転送速度を求めよ。ただし、本文中に記述された条件以外は、すべて無視できるものとする。

(3) IPアドレスによるキャッシュサーバの選択は、どのような方法で行われるか。キャッシュサーバの設置場所に着目して、70字以内で具体的に述べよ。
(4) 本文中の下線(ウ)では、なぜ予測としたか。その理由を、40字以内で述ベよ。

(5) 本文中の下線(エ)のために、PCが入手しなければならないキャッシュサーバに関する情報は何か。20字以内で述べよ。また、本方式の計測結果には、IPアドレスによる選択方式で得られない、サービス品質を低下させる要因が含まれている。その要因を二つ挙げ、30字以内で述べよ。

この問題の解答と詳細解説はGene製作のテクニカルエンジニア(ネットワーク)平成15,16,17年度分
午後問題完全解説集!

詳細はこちら→//www.n-study.com/library/2006/05/post.html

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