マルチキャストの用途
では、具体的にマルチキャストの用途を考えて見ましょう。マルチキャストの 用途として、次のようなものがあげられます。
1. 同じデータの同報
株価情報や監視カメラの映像、テレビ会議システムの映像や音声データなど、
同じ内容のデータを複数の宛先に送信するためにマルチキャストを利用します。
2. 共通のプロトコルを動作させているルータやホストへのデータ送信
RIPv2、OSPF、EIGRPなどのルーティングプロトコルを動作させているルータに
ルート情報を送信するときにマルチキャストを利用することが多いです。他に
はHSRPやVRRPなどでもマルチキャストを利用します。
この場合、マルチキャストのグループアドレスさえわかっていれば、個々のル
ータのインタフェースやホストのIPアドレスを知っておく必要はありません。
なお、2番目の用途の[共通のプロトコルを動作させているルータやホストへの
データ送信]の用途は、同じサブネット内を想定しています。同じサブネット
内で共通のプロトコルを動作させているルータやホストに対してさまざまな制
御情報をマルチキャストで送信するわけです。
1番目の用途の[同じデータの同報]は同じサブネット内のみではなく、サブネ
ットを越えたネットワーク全体も対象にして同じデータの同報を行うことがで
きます。ただし、サブネットを越えた、つまりルータやレイヤ3スイッチを経
由する場合にはマルチキャストルーティングを行う必要があります。
説明上、用途を2つに分けて説明していますが、2番目の用途は1番目に含まれ ていると考えることもできます。つまり、マルチキャストの主な用途は同じデ ータの同報であるということができます。
同じデータの同報の仕組み
同じデータを複数の宛先に同報するのは、マルチキャストだけでなくユニキャ ストでもブロードキャストでも可能です。ただし、ユニキャスト、ブロードキ ャストではあまり効率よく行うことができません。マルチキャストによって最 も効率よく同じデータの同報を行うことができます。その様子を3種類のデー タ送信で比較して見ましょう。
ユニキャストでのデータの同報
まず、ユニキャストでのデータの同報を考えます。先ほどのネットワーク構成
でホストAからホストC、ホストDに対して同じデータを送信する場合を考えます。
ホストAからホストC、ホストDに対して同じデータをユニキャストで送信する
ためには、データを2つコピーしてそれぞれのアドレス情報としてホストC、ホ
ストDのアドレスを指定して送信すればいいです。
この例では宛先のホストが2台のみなので、たいした問題はありませんが、宛 先のホストが増加するとユニキャストによる複数の宛先へのデータの同報には、 次のような問題が起こってきます。
- 送信元ホストの負荷が増大する
送信元ホストが宛先のホストの数だけデータをコピーして送信しなければい けないため、送信元ホストの処理負荷が増大します。 - ネットワーク帯域を過剰に消費する
宛先のホストごとに同じデータを送信するため、ネットワーク帯域の消費が 大きくなります。特に送信元が接続されているセグメントの帯域消費が非常 に大きくなります。 - 宛先ホストのアドレスの管理が大変になる
ユニキャストでデータを送信するためには、あらかじめ宛先ホストのアドレ スを把握しておかなければいけません。宛先ホストの数が増えると、アドレ スの管理が煩雑になってしまいます。
ブロードキャストでのデータの同報
次にブロードキャストを利用してホストAからホストC、ホストDへ同じデータ
を同報する場合を考えます。
ホストAからはデータのアドレス情報をブロードキャストアドレスにして1つだ
け送信します。すると、レイヤ2スイッチがフラッディングすることで、デー
タがコピーされサブネット上のすべてのホストにデータが届きます。
ユニキャストによるデータの同報に比べると、送信元ホストではデータを1つ
だけ送信するので、送信元ホストの負荷が増大することがありません。データ
のコピーはレイヤ2スイッチで行われています。送信元ホストでデータを1つし
か送信しないので、送信元ホストのセグメントでの帯域消費も過剰にはなりま
せん。また、データの送信先ホストのアドレスをあらかじめ把握しておく必要
はありません。ブロードキャストアドレスを指定してデータを送ればそのデー
タは受信されることになります。
ただし、ブロードキャストを利用した同報では、本来データを送信したいホス
ト以外にもデータが届き、そのデータを受信します。結果として、関係のない
ホストの処理負荷が大きくなってしまいます。また、ブロードキャストは同じ
サブネット内のホストにしかデータを送信できません。
マルチキャストでのデータの同報
ここまで解説したようにユニキャスト、ブロードキャストでも同じデータの同 報は可能ですが、あまり効率がよくないことがわかります。ユニキャスト、ブ ロードキャストでの問題点を解決し、より効率よいデータの同報を行うことが できるのがマルチキャストです。
ホストAからホストC、ホストDに同じデータを同報するには、先ほどもみたよ うにホストC、ホストDでマルチキャストグループを作成し、そのマルチキャス トグループアドレスを指定してデータを送信します。
送信元ホストのホストAでは、データを1つだけ送信します。このときの送信先
アドレスはマルチキャストアドレスです。複数の宛先へ同報するためのデータ
のコピーはレイヤ2スイッチのフラッディングで行われます。
フラッディングされるので、データのあて先ではないホストBにもデータが届
きますが、ホストBはデータを受信しません。マルチキャストグループに参加
しているホストC、ホストDのみがこのデータを受信し処理を行います。
マルチキャストを利用すると、ユニキャストでの
- 送信元ホストの負荷が増大する
- ネットワーク帯域を過剰に消費する
- 宛先ホストのアドレスの管理が大変になる
という問題点が解決します。また、ブロードキャストでの
- 宛先ホスト以外に負荷がかる
という問題点も解決します。さらに、ブロードキャストの場合はサブネットを 越えて転送することができないのですが、マルチキャストではマルチキャスト ルーティングの設定が行われていれば、サブネットを越えてネットワーク全体 でのデータの同報が可能になります。







