無線LAN 無線LANの仕組み その5

無線LANの伝送速度とアクセスポイントのカバー範囲

無線LANアクセスポイントと無線LANクライアントの距離が離れれば離れるほど、
無線LANでの伝送速度は低くなります。このとき、送信速度の低下は連続的で
はなく不連続です。各無線LAN規格における取り得る伝送速度は次のようにな
ります。

伝送速度が高速であるとは、1つの電波によりたくさんのビットを載せること
ができると言うことです。電波自体が伝わっていく速度が高速であるわけでは
ありません。高度な変調を行い、1つの電波にたくさんのビットを載せて送信
することができれば、短時間でデータの転送を完了できるので「高速」という
ことです。ただし、高速な伝送速度を実現するための変調の仕組みはノイズの
影響を受けやすいので、無線LANで高速な伝送速度が可能な範囲は限られてし
まいます。
1つのアクセスポイントがカバーする無線LANの範囲を「セル」や「カバレッジ
エリア」、あるいは単に「カバレッジ」と言います。伝送速度によって、セル
の範囲は違ってきます。伝送速度が高速な場合のセルの範囲は狭く、伝送速度
が低速な場合のセルの範囲は広くなります。たとえば、IEEE802.11bの無線LAN
アクセスポイントのセルの範囲は次のようになります。

無線LANクライアントは、ビーコン信号で利用可能な伝送速度を検出していま
す。また、電波の出力強度が大きければ、全体的なセルの範囲は広くなります。

複数のアクセスポイントで無線LANネットワークを構築する場合は、チャネル
の設定も考慮する必要があります。各無線LAN規格で利用する周波数帯はいく
つかのチャネルから構成されています。無線LAN規格ごとのチャネルは次の表
のようになります。

隣接するアクセスポイントで同じチャネルを利用すると、電波干渉の恐れがあ
ります。そのため、隣接するアクセスポイントでは、干渉しないチャネルを利
用して無線LANネットワークを構築します。

アクセスポイントからの電波が到達せず、無線LANでの通信ができない部分を
「カバレッジホール」と言います。アクセスポイントの設置は、サイトサーベ
イという調査を行い、カバレッジホールや電波の干渉がないようにセルの範囲・
チャネル設定を考慮して設置する台数および場所を決定します。

※Cisco無線LANソリューションのRRM(Radio Resource Management)機能を利用
すれば、セルの範囲・チャネルを自動設定することが可能です。

ローミング

無線LANクライアントが移動したときに、アソシエーションするアクセスポイ
ントを切り替える仕組みをローミングと言います。
アクセスポイントからは定期的にビーコン信号が送信されていて、クライアン
トはビーコン信号によって、周囲のローミング候補のアクセスポイントを検出
しています。ローミングのきっかけは、IEEE802.11の仕様上では特に定義され
てず、ベンダ固有の仕様です。ローミングのきっかけとして、

  • クライアントのデータレートの低下
  • ビーコン信号の喪失

などがあります。なお、ローミングを行うためには、アクセスポイントで共通
のSSIDの設定がされている必要があります。

ローミングで切り替えるアクセスポイントの配置によって、レイヤ2ローミン
グとレイヤ3ローミングがあります。

  • レイヤ2ローミング
    ローミング先のアクセスポイントが元のアクセスポイントと同じサブネット上に存在
  • レイヤ3ローミング
    ローミング先のアクセスポイントが元のアクセスポイントと異なるサブネット上に存在

ローミングによって、シームレスな無線LANネットワークを構築することがで
きますが、問題点があります。

  • ローミング時の再認証に時間がかかる
  • クライアントのIPアドレスが変更されてしまうことがある

新しいアクセスポイントにアソシエーションするときに、再認証で時間がかか
ればその間の通信はできなくなります。すると、アプリケーションのセッショ
ンが切断されてしまう可能性があります。リアルタイムの通信が必要なVoIPや
ストリーミングアプリケーションで特に大きな問題点です。
また、レイヤ3ローミングの場合、クライアントが所属するサブネットが変更
され、IPアドレスが変わってしまうことがあります。IPアドレスが変わってし
まうと、それまでのアプリケーションのセッションはすべて切断されてしまう
ことになります。
こうしたローミングの問題点を解決するためにCiscoの無線LANソリューション
では次のような機能が提供されています。

  • ファストセキュアローミング
    WDS(Wireless Domain Service)によって、ローミング時の再認証を高速に行
    うことができます。
  • モビリティ
    LightweightアクセスポイントとWLCによる無線LANソリューションでレイヤ3
    ローミングを行ったとしても、クライアントは同じIPアドレスを利用し続け
    ることができます。