平成16年度テクニカルエンジニア(ネットワーク)午後Ⅱ 問2設問4解答と解説

目次

解答

(1)ISPのバックボーンと広帯域に接続できること(22字)
耐震構造、二系統受電等の安全対策について(20字)
[別解]できるだけ多くのISPと接続が可能なこと(20字)
(2)40M ビット/秒
(3)受信したパケットの送信元のグローバルIPアドレスを管理する組織情報から対応するISPを特定し、そのISPと接続したキャッシュサーバを選択する(70字)
(4)パケット転送時間計測後にサーバやネットワークの状態が変化することがあるため(37字)
(5)キャッシュサーバに関する情報:
グローバルIPアドレス(11字)
サービス品質を低下させる要因:
キャッシュサーバに加わる負荷とネットワーク遅延の増加(26字)

解説

(1)
Y社の検討したコンテンツ配信システムの構成は、他社のIDCにキャッシュサーバをハウジングするものです。他社IDCの調査については、問題文で次の記述があります。

利用するIDCの選定に当たっては、サービス品質の向上、安全対策及び高品質なサービス提供エリアの拡大を目的として、IDCがもつ設備に加えて、ISPへの接続形態も併せて調査した。

「サービス品質の向上」「安全対策」「高品質なサービスエリアの拡大」という3つの目的から、それぞれ調査内容を具体的に推測してみましょう。

サービス品質の向上
品質向上のための要素で最初に思い浮かぶのはやはりISPとの接続回線帯域ですね。オリジンサーバを設置するY社の東京IDCも、ISPのバックボーンネットワークのコアルータに直接接続されているということです。これが1つの解答になるでしょう。25字以内でまとめると、

ISPのバックボーンと広帯域に接続できること(22字)

となります。
ところで、Y社の東京IDCがISP-AとISP-Bのコアルータに直接接続できるそうですが、この記述はおかしいと思います。ストリーミングやWebサーバの公開程度の用途で、ISPのコアルータと直結できるとは思えません。必ずエッジルータ相当の機器が間に入るはずです。

安全対策
耐震構造、電源二系統、空調二系統、防犯などなど、データセンタ設備についての調査でしょう。基本的にこういった設備が整っているからこそ「データセンタ」なのですが、細かい仕様はデータセンタ毎に異なってくるため、Y社は調査を実施したと考えられます。25字以内でまとめると

耐震構造、二系統受電等の安全対策について(20字)

となります。

高品質なサービスエリアの拡大
高品質なサービスエリアを拡大するためには、キャッシュサーバができるだけ多くのISPと接続されているほうがよいでしょう。トラフィックがISPをまたがらずに転送できることが重要だからです。25字以内でまとめると

できるだけ多くのISPと接続が可能なこと(20字)

以上の3つのうち2つを解答すればよいでしょう。

(2)
これは単純な計算問題ですね。計算の前提となる条件は次のとおりです。

1台のキャッシュサーバに3×109バイトのコンテンツを複製する時間は、計算上10分に抑えられる。

速度の単位が問題文に明記されてませんが、通常は[ビット/秒]で計算すればよいでしょう。

データ量 = 3×109[バイト] = 3×109×8[ビット]

転送時間 = 10[分] = 10×60[秒]

よって、実効転送速度 = 3×8×109 ÷ (10×60) = 40M[ビット/秒]

となります。
ちなみに、コンテンツの複製に1台10分必要なので、10台のキャッシュサーバにコピーするためには、100分必要になるという計算です。ユニキャスト通信の場合は、1台1台コピーを行う必要があるからです。これがマルチキャスト通信であれば、同時に10台のサーバに複製できるため効率的です。

(3)
クライアントからのリクエストに対して、最適なキャッシュサーバを選定するための方法に関する問題です。
CDNでは、トラフィックが極力ISP間をまたがらないように設計することで品質を確保しています。そのためにキャッシュサーバは複数台用意され、できるだけ多くのISPにキャッシュサーバを接続することになります。ではクライアントは複数のキャッシュサーバの中からどうやって最適なキャッシュサーバを選択しているのでしょうか?キャッシュサーバの選択方式についてI係長は次の2つを説明しています。

  • IPアドレスによる選択方式
  • パケット転送時間の計測による選択方式

IPアドレスによる選択方式について、I係長は次のように説明しています。

IPアドレスによる選択は、グローバルIPアドレスを管理する組織情報を利用して行われます。PCからサービスを要求されたWebサーバは、受信したパケットの送信元のグローバルIPアドレスを基に、サービスの提供に適したキャッシュサーバを選択します。

つまり、クライアントの送信元グローバルIPアドレスから、ISPを判断するということです。そのためには、どのアドレスがどのISPに対応するかということを事前に知っている必要があります。I係長は「IPアドレスを管理する組織情報」と言っていますね。

グローバルIPアドレスは、日本ではJPNICという組織が管理しており、特定のIPアドレス空間をぶつ切りにして、各ISPやユーザに割り当てられています。そのIPアドレスとISPの対応付けを事前に知ることができれば、クライアントのソースIPアドレスから同じISPと接続された最適なキャッシュサーバを選択することができるというわけです。
ただし、不特定多数のクライアントが想定される環境で、事前にこういった情報を得ることは現実的には難しいと考えられます。接続クライアントがある程度予想できる範囲しか無い場合であれば、有効な方法でしょう。
この仕組みをキャッシュサーバの設置場所に着目して70字以内でまとめると

受信したパケットの送信元のグローバルIPアドレスを管理する組織情報から対応するISPを特定し、そのISPと接続したキャッシュサーバを選択する(70字)

となります。

(4)
パケット転送時間の計測によるキャッシュサーバ選択方式に関する問題です。
前問で解説したように、IPアドレスによる選択方式では、IPアドレスとISPを対応付ける情報が必要になります。逆に言うと、こういった「組織情報」が無いIPアドレスからのリクエストに対しては、最適なキャッシュサーバを選択することができません。パケット転送時間の計測による選択方式ではそういった問題が解消されるため、I係長はこちらの方式を採用する方針で進めています。
この方式について、I係長は次のように説明しています。

パケット転送時間の計測による選択は、PCが計測したパケット転送時間を基に行われます。PCからサービスを要求されたWebサーバは、PCに対してキャッシュサーバとの間のパケット転送時間の計測を指示し、PCが計測した結果を基に、最適なキャッシュサーバを選択します。

PCは、受信した【f】(プログラム)を実行させて、キャッシュサーバとの間の実効転送速度を計測する。PCは、計測後に結果をWebサーバに送信する。Webサーバは、PCが計測した結果の中で、実効転送速度が最大のキャッシュサーバをコンテンツの配信元に選択し、そのキャッシュサーバのグローバルIPアドレスをPCに送信する。視聴者が、PCに表示されたメニューの中からコンテンツを選択すると、PCは、通知されたグローバルIPアドレスをもつキャッシュサーバに⑦(コンテンツ配信要求)を送信し、 ⑧(コンテンツ配信)
を受ける。

このようにPCが実際にキャッシュサーバとの間のパケット転送時間を計測することで、実測ベースで最適なサーバを選択することができます。この方法であれば事前に「組織情報」を把握することなく、最適なキャッシュサーバを選択することができます。

次の図を例に考えて見ましょう。ISP-Xのユーザがサービスを受けたい場合、IPアドレスによる選択方式では、Y社のIDCか他社のIDCか、どちらのキャッシュサーバに接続したらいいかの選択ができません。パケット転送時間の計測による選択方式であれば、以下のように最適なサーバを選択できます。

H16A2-2-4pic1.JPG

上の図はI係長の説明を図示したものですが、実際のルーティングはベンダ独自にいろんな工夫がなされていると思われます。

では問題に戻ります。下線(ウ)でなぜ「予測」という言葉が使われているのでしょうか?この問題文だけでは、どういった解答が求められているのか少し分かりにくいですよね。「予測」ということは、外れることもあるということです。ではどういった場合に予測がはずれのるか、を考えれば答えのヒントが見えてきます。

インターネットは常に品質が保証されたネットワークではありません。だから、パケット転送時間の測定結果が時間軸で変化することが考えられるでしょう。
例えば上の図で考えた場合、測定結果でY社のサーバが最適だと判断されたとしても、後になってY社のサーバにアクセスが集中し、レスポンスが悪化するかもしれません。また、ISP-Aで輻輳が発生し、極端に品質が劣化するかもしれません。これがパケット転送時間の計測結果はあくまで「予測」の範囲を超えない理由と考えられます。
これを40字以内でまとめると

パケット転送時間計測後にサーバやネットワークの状態が変化することがあるため(37字)

となります。

(5)
「キャッシュサーバに関する情報」と、「サービス品質を低下させる要因」の2つを解答する必要がある問題です。
PCは最初はWebサーバの情報しか知りません。キャッシュサーバに対して計測を実施するためには最低限IPアドレスは知る必要があるでしょう。単純すぎて逆に迷うかもしれませんが、ここはシンプルに考えてよいと思います。

キャッシュサーバに関する情報 : グローバルIPアドレス(11字)

次に、「サービス品質を低下させる要因」について考えてみます。正直言ってこれは問題文が分かりづらいですね。問題文は

本方式の計測結果には、IPアドレスによる選択方式で得られない、サービス品質を低下させる要因が含まれている。その要因を二つ挙げ、30字以内で述べよ。

ですが、この意味を理解するのに苦労しました。
問題文を言い換えると、

「IPアドレスによる選択方式ではサービス品質を低下させる要因を知ることはできないが、転送時間計測方式では、サービス品質を低下させる要因を、2つ以上知ることができます。そのうち2つを解答してください」

という意味だと思います。
実効転送速度を計測するに当たって、サービス品質低下の要因となりうるのは次のものが考えられます。

  • キャッシュサーバの負荷
  • ネットワーク遅延
  • パケットロス etc

例えば、前問のサーバ選択手順の図において、Y社のサーバにアクセスが集中し負荷高となっていたと仮定します。その場合、転送速度計測の結果は他社IDCに設置してあるキャッシュサーバの方が良好な値を記録するでしょう。その結果、レスポンスの悪化しているY社のサーバへの接続を避けるため、負荷を分散させることができます。サーバやネットワークの状態に合わせて、動的に最適なサーバを選択することができるわけです。

一方IPアドレスによる選択方式は、あらかじめ決められたサーバに接続するだけです。Y社のサーバ負荷が高くてもおかまいなしにY社のキャッシュサーバに接続されることになります。
こういった意味で、転送時間計測方式は、サービス品質を低下させる要因を知ることができるといえるでしょう。よって解答は以下のとおりとなります。

サービス品質を低下させる要因 :
キャッシュサーバに加わる負荷とネットワーク遅延の増加(26字)


テクニカルエンジニア(ネットワーク)の試験対策にはGene作成の完全解説集で!平成17-19年度版好評発売中!!ご購入はこちらから