平成16年度テクニカルエンジニア(ネットワーク)午後Ⅰ 問3設問1解答と解説

目次

解答

【a】 オ
【b】 シ
【c】 ケ
【d】 イ
【e】 ク

解説

【a】【b】【c】【d】【e】は広域イーサに関する穴埋め問題ですが、【e】以外はすべてイーサネットの基本的な内容です。イーサネットの基礎知識として軽く全問正解できるようにしましょう。

【a】
「キャリアの衝突を検出する」というZ氏のコメントから、CSMA/CDであると分かります。
CSMA/CDとは、LANで半二重通信を実現するための方式です。CSMA/CD方式では、データを送信しようとするノードは、ケーブル上で他のノードが通信を実施していないか監視しており、他のノードが通信していないときを見計らってデータを送信します。
それでも他のノードと同じタイミングでデータを送信してしまうこともあり、その場合はデータが衝突してしまいます。このデータの衝突のことを「コリジョン」といいます。Z氏のコメントの「キャリアの衝突」とはコリジョンのことを意味しています。
コリジョンが発生したときは、ノードはランダム時間待ってから、再度データを送信します。これを図示すると次のようになります。

H16A1-3-1pic1.JPG

H16A1-3-1pic2.JPG

H16A1-3-1pic3.JPG

CSMA/CDはイーサネットで半二重通信を実現する方式です。物理的にはリピータハブで構成されます。リピータハブは電気信号を中継(リピート)するだけなので、フレームを受信したポート以外のすべてのポートに同じフレームをフラッディングします。トラフィックが多くなれば当然コリジョンが発生する確率も高くなり、コリジョンが頻発すると、なかなかデータを再送できずにさらにトラフィック量が増えるという悪循環に陥ることがあります。

一方LANスイッチで構成されたLANは全二重通信が可能です。全二重通信であるため、コリジョン自体が発生することがありません。また、LANスイッチはすべてのポートにフレームを転送するのではなく、MACアドレスを学習して、宛先となるノードが接続されているポートのみにフレームを転送します。
こういったリピータハブとLANスイッチの違いも、イーサネットの基本として抑えておきましょう。

選択肢にCSMA/CAがありますが、CSMA/CDと見た目が似ているので迷うかもしれません。CSMA/CAは無線LANの通信方式です。CSMA/CDと基本的な考え方は同じなのですが、無線なので衝突(コリジョン)を検出できないのがCSMA/CDとの一番の違いです。CSMA/CAではコリジョンを検出する代わりに、受信側からのAckを監視しており、Ackが確認できない場合に、相手側にデータが到達しなかったと判断し、ランダム時間待ってから再送することになります。

【b】
「イーサフレームの送受信が同時にできる」通信は、全二重通信ですよね。よって「シ.全二重」が当てはまるでしょう。用語の意味をそのまま問う問題ですが、一応用語を解説しておきます。

  • 全二重通信:送信/受信を同時に行うことができる通信方式のことです。Full Duplexともいいます。
  • 半二重通信:送信/受信を同時に行うことはできないが、時間を区切って、送信/受信の両方を通信させる方式です。Half Duplexともいいます。

【a】のCSMA/CDは半二重通信の方式です。送信と受信を同時に実施するとコリジョンが発生してしまうため、送信と受信でタイミングをずらしてそれぞれのデータを通しています。全二重通信は送信と受信が同時に行うことができるため、コリジョンが発生することがありません。

【c】
イーサネットではネットワークがつながっていればだれとでも自由に通信ができるのが通常です。では通信事業者の広域イーサでは、S社と関係のない他社にネットワークがつながってしまうことはないのでしょうか?もちろんその心配はありません。それは通信事業者の網内では契約者ごとにVPNが構成され、お互いのネットワークが論理的に分断されているからです。VPNを構築する技術としてZ氏はタグVLANの拡張技術を説明しています。

e-wordsで「VPN」を検索すると、

公衆回線をあたかも専用回線であるかのように利用できるサービス。実際に専用回線を導入するよりコストを抑えられる。
この種のサービスは当初、電話回線(音声通信)で提供されていたが、最近ではインターネット上で認証技術や暗号化を用いて保護された仮想的な専用回線を提供するサービスも現れている。

とあります。つまり、通信事業者の公衆網をあたかもユーザの専用網であるかのように利用できるサービスがVPNです。VPNというと、IPsecやSSL-VPNなどを使用してインターネットを専用網のように利用したものだけがVPNであるかのように説明したものを時々見かけますが、そうではありません。IP-VPN、広域イーサ、フレームリレーなども当然VPNの一種です。

またZ氏は広域イーサの説明に

IEEE802.1QのタグVLANを拡張した機能によって契約者ごとに【c】(VPN)を構成する

と言っていますが、実際には広域イーサを構成する技術はタグVLANだけではなく、ポートVLAN、EoMPLS(Ethernet over MPLS)など、通信キャリアによって使用している技術の組み合わせはさまざまです。その中でもZ氏の説明したタグVLANを拡張した技術は、広域イーササービスを把握するうえでの基本となるのでよく理解してください。ここではZ氏の説明イメージ(タグLANの拡張機能を使用した広域イーサ)を図示してみます。

H16A1-3-1pic4.JPG

通信事業者の網内は物理的には同じ設備をA社、B社で共有していますが、拡張VLANタグ機能を利用して、論理的にA社、B社が分割されています。

【d】
IEEE802.1QのタグVLANに関する説明ですね。タグVLANとは、イーサネットフレームに「タグ」と言われる識別子を挿入することで、別々のVLANのフレームを同一リンク上で伝送する技術です。タグVLANには、IEEEによって標準化されているIEEE802.1Qやベンダ独自のタグVLAN方式があります。ベンダ独自方式で代表的なのものに、CiscoのISLなどがあります。テクニカルエンジニア対策では標準方式であるIEEE802.1Qのフレームフォーマットについて抑えておきましょう。

H16A1-3-1pic5.JPG

TPID : Tag Protocol Identifier(プロトコル識別子)
81-00の固定値です。ここの値を見ることによって、L2SW等はフレームにタグ情報が付加されていることが分かります。

TCI : Tag Control Information(タグ制御情報)
このうちの12ビットがVLANを識別する番号で、VLAN識別子(VID)と言います。2の12乗=4095なので、0~4095までの4096個のVLANを識別することができます。実際には識別できるVLANの最大数は機器の仕様によって、4095だったり4094だったり異なってきます。

上で解説したIEEE802.1Qのフレームフォーマットを覚えていれば、問題のVIDは12ビットである、と分かります。覚えていなくても、「4094のVLANを識別できるようになっています。」というZ氏のコメントがヒントになります。4094個のVLANを識別するためには2進数で12ビット必要ですよね。このように逆算で答えを導くこともできます。

【e】
各通信事業者がサービス品質を保証するための制度を「SLA(Service Level Agreement)」といいます。これが空欄に入ります。例えば広域イーサだと

  • 網区間の往復遅延時間を35ミリ秒以下にすることを保障する
  • 故障回復時間を1時間以内を保証する
  • 故障を検知してから30分以内に通知する

..etc

といった内容が保障されることになります。通信事業者がSLAを守れなかった場合には、料金の○%を返還する、と規定されるのが一般的です。保障される内容や対象範囲は通信事業者によって異なるので注意が必要です。


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