日経コミュニケーション 2005.7.15 『世界で始まった無線LANの「面展開」 P40~48』 by Gene
ライブドアが月額525円で10月からスタートするといっている無線LANのサービスに注目が集まっています。これまでも、駅構内やファストフード店、ホテルロビーなどで無線LANによるインターネットアクセスサービスはありました。このようなサービスは、特定の点(スポット)におけるインターネットアクセスを提供するものです。無線LANアクセスポイントから離れてしまうと、つながらない。また、次のアクセスポイントを探さなくてはいけません。
でも、ライブドアが始めようとしているサービスは、これらとは一線を画すもので、サービス開始当初で山手線圏内の80%を面的にカバーするというものです。
ライブドア「D-cubic」プレスリリース
ライブドア堀江社長、「D-cubicは孫さんの低価格ADSLのモバイル版」
ライブドアが始める無線LANサービスを受けて、世界では無線LANの面展開サービスがどうなっているのか?ということをレポートしているのが、今回レビューで取り上げた記事です。
台湾・台北市では世界最大規模の無線LAN面展開サービス「網路新都」がはじまるようです。2006年末で人口の90%をカバーする計画で、すでに2005年7月時点で、市内中心部と駅構内で無線LANが利用できるようになっています。アメリカでは、自治体が中心となって公共サービスとして無線LANのアクセスを提供する動きがあるようです。
国内では、ライブドアのほかにも、大阪市南港のコスモスクエア地区一帯を無線LANで覆う計画や、今年12月にYOZANがサービス開始予定のWiMAXによる無線LANサービスなどもありますね。
国内外を問わず、無線LANの面展開サービスが開始されようとしています。こうした無線LANの面展開サービスを実現するには、次の3つの手法があります。
- メッシュ型
無線LANのAP同士がバケツリレー方式でデータを有線ネットワークまで転送 - 広域無線技術との組み合わせ
WiMAXやFWAなどの広域をカバーできる無線技術を使い、無線LANのデータを有線ネットワークまで転送 - ひたすら設置型
有線ネットワークにつながった無線LANのAPを多数設置
1.メッシュ型は、台湾・台北市の「網路新都」の構築手法です。すべてのAPを有線ネットワークに接続しなくていいので、その分のコストを少なくできますね。
2.は、YOZANが開始予定のサービスがこのタイプです。WiMAXやFWAなど数km~数10kmの広域をカバーできる技術との組みあわせです。インテルがWiMAXを組み込んだチップセットを開発する予定なので、数年後の主流になりそうな感じです。
ライブドアのD-cubicは、3.ひたすら設置型です。ひたすらAPを設置するのは、無線LAN技術もかなり成熟してきているので、技術的には一番簡単そうです。ただ、全APを有線ネットワークに接続する必要があるのでかなりコストがかかりそうですね。
これまで無線LANの面展開は、3.のひたすら設置型しかなかったのが、新しい選択肢としてメッシュ型、広域無線技術との組み合わせがでてきたので、柔軟なサービス展開が可能になっているようです。
こうした無線LANの面展開はユーザにとっては、とても歓迎すべきことですね。外出先でも利用料金を気にせずに高速なインターネット接続ができるようになれば、ライフスタイルにも変化を与えそうです。
たとえば、無線LAN搭載のPDAにSkypeなどのソフトフォンをインストールすれば、定額の携帯電話になります。電話番号の付与について、ややこしい議論が必要でしょうけどね。
でも、無線LANの面展開サービスが普及したら、電話会社が困りそう・・・音声の収入が減ってきて、データ通信の収益を育てようとしているところにかなりの打撃があるんじゃないかと思います。
実際に、ぼくも外出先ではauのWINでインターネットにつないでいるんですけど、無線LANがもっといろんな場所で使えるようになったら、無線LANをメインにするでしょう。家庭のインターネット接続も、ライブドアのAPが家のそばにあれば、525円でそっち使うって言う人も当然でてくるでしょう。
ライブドアのサービスの行方は、NTT東西地域会社、KDDI、日本テレコムなどの固定電話やNTTドコモ、au、ボーダフォンの携帯電話会社の人たちがかなり真剣に見ているんじゃないかなと。
ただし、面展開サービスはそんなに簡単にいかないだろうとも思っています。特にライブドアのD-cubicはどうかなぁと。ちょっと考えてみただけでも、技術的にも運用的にもいろんな課題がありそうです。ざっと、挙げてみると、
- カバーするエリア
サービス開始当初で、山手線圏内80%といっているけど、80%という数字は大きくないです。FOMAでカバー率98%のときですら、『つながらない』という不満がでているぐらいですから。
特に都心部では、ビルが入り組んでいたりするので、面だけじゃなく高さやビルの影なども考慮しないと『つながらない』という不満が続出するでしょう。 - スループット
今回の記事の冒頭のネットワーク事業本部のマネージャのコメントで最低でも5Mbpsとのことですが、無線LANは共有メディアなので、ユーザが増えれば増えるほど、スループットは低下します。1APにどのぐらいのユーザを想定して、最低5Mbpsといっているのかが疑問です。 - セキュリティ
SS-IDとWEPみたいですが、WEPキーをユーザごとに変更する仕組みがあるのかが心配です。WEPキーが同じだったら、暗号化していないのと同じようなもので、データの盗聴の心配がかなりあります。 - 運用体制
APの運用体制をどうしているのかなって言う心配があります。ライブドアには、ブログのサービスで運用体制にはかなり失望させられた経験があります。
リモートでAPの監視はするようですが、運用体制としてどの程度の人員を確保しているのかなぁ。サービス料金が安いので、この辺のコストをかなり削
りそうな予感がします。 - 移動時のハンドオーバー
移動時にAPのハンドオーバーってきちんとできるのかなが心配です。パソコンでWebサイトを見るときには問題ないと思いますが、無線IP電話で移動しながら通話していると、通話がブチブチ切れそうな予感が。
525円のサービスで、そこまで期待するのは酷かもしれませんが、きちんとハンドオーバーできるようになっているといいですね。
などなどの課題があります。
いままで、ライブドアという会社の技術力はほとんど信用していませんでした。ブログのサービスで何度も同じようなミスばかり繰り返していたので。でも、課題をクリアしてこのD-cubicのサービスをうまく運用できるようであれば、ライブドアの技術力を見直さないといけませんね。
とりあえず、7月末の試験サービスと10月からの本サービスにも申し込んで、実際に利用してみたいと思っています。
日経コミュニケーションの詳細、購読申し込みはこちら↓