目次
OSPFエリアとは
OSPFエリアとは、「同一のLSDBを持つOSPFルータのグループ」です。単一のエリアではなく、複数のエリアに分割することでOSPFは大規模なネットワークで効率よくルーティングテーブルを作成できるようになります。以下は、複数のエリア構成の簡単な例です。
エリア0に含まれるルータはすべて共通の「エリア0のLSDB」を持ちます。エリア1に含まれるルータはすべて共通の「エリア1のLSDB」を持ちます。同様にエリア2に含まれるルータはすべて共通の「エリア2のLSDB」を持ちます。エリア同士を相互接続するルータはエリア境界ルータ(ABR : Area Border Router)と呼びます。ABRは複数のエリアに所属して、複数のエリアのLSDBを持つルータです。
なお、OSPFエリアは32ビットのエリア番号で識別します。エリア番号として、単純な数字で表記することもありますし、IPアドレスのように「x.x.x.x」と8ビットずつの10進数表記することもあります。
エリア内とエリア外の認識
OSPFルータは、LSDBでネットワーク構成を把握しています。複数のエリアに分割することで、エリア内とエリア外でどの程度まで詳細なネットワーク構成を把握するかが違ってきます。簡単にいえば、「エリア内は詳しく、エリア外は概要だけ」です。
エリア内については、ルータが何台あり、それぞれのルータがどのように相互接続されているかということまで詳しくネットワーク構成を把握します。こうしたエリア内の詳細なネットワーク構成を記述するLSAは、エリアの外には流しません。そのため、大規模なネットワークでもLSAのやりとりを削減できます。一方、エリア外はネットワークアドレスとそこに到達するためのメトリックという概要だけです。つまり、エリア外はあまり詳細なネットワーク構成を知る必要なく、RIPなどのディスタンスベクタ型のルーティングプロトコルと同程度ということです。また、OSPF以外のルーティングを行っている部分(非OSPFドメイン)についても、ネットワークアドレスがわかるようにしています。
エリア内のネットワーク構成に変更があると、エリア内に通知して必要に応じてSPF計算を実行してルーティングテーブルを更新します。一方、エリア外の変更についてはSPF計算を実行しません。エリアを分割することで、あまり関係のないエリア外のネットワーク構成が変更されても、SPF計算を行うことがなくなります。
「図 OSPFエリアの概要」内のLSDB(エリア1)についてフォーカスすると、以下のようになります。
LSDB(エリア1)では、エリア1のネットワーク構成の詳細が記述されています。ルータが3台いて、それぞれのルータがどのように接続されているかがわかります。また、他のエリアと接続しているABRとなっているルータもわかります。エリア1以外については、どんなネットワークアドレスがあるかという概要だけです。
OSPFエリアは2階層
OSPFでルーティングするネットワークを複数のエリアに分割するときには、2階層のエリア構成を取ることになります。中心となるエリアをバックボーンエリアと呼びます。エリア0がバックボーンエリアとして認識されます。その他のエリアは、必ずバックボーンエリアと接続しなければいけません。原則として、バックボーンエリア以外のエリアの先に、さらに他のエリアを接続することはできません。エリア間のルート情報がループしないようにするためにこうしたエリア構成に制約があります。
不正なエリア構成の例
以下のように、エリア1の先にエリア3を接続するようなエリア構成は不正なエリア構成です。
このようなエリア構成をどうしても取りたいときには、例外的にバーチャルリンクを利用することで可能です。ただし、バーチャルリンクが必要なエリア構成は一時的なソリューションとして考える方がよいです。
また、以下のような複数のバックボーンエリアも不正なエリア構成です。
こうした複数のバックボーンエリア構成は「分断バックボーン」や「不連続バックボーン」と呼びます。不連続バックボーンのエリア構成になってしまうと、それぞれのバックボーンエリアを中心とした2階層分のエリア間のみ通信ができますが、OSPFネットワーク全体の通信はできません。上記の図では、エリア1とエリア3間の通信はできません。また、不連続なバックボーンエリア間の通信もできません。リンク障害などの影響で意図せずに不連続バックボーンになってしまうことを防ぐために、バーチャルリンクの設定を行うこともあります。
関連記事
企業ネットワークのエリア構成の例
OSPFのエリアはバックボーンエリアを中心とした2階層が原則なので、企業ネットワークのエリア構成は拠点間を接続するWANの部分をエリア0とすることが多いでしょう。そして、各拠点のネットワークをその他のエリアに分割します。
こうしたエリア構成を取ると、拠点のネットワークのルート情報を効率よく集約することも可能です。
関連記事
まとめ
ポイント
- OSPFエリアとは同じLSDBを持つルータのグループです。
- エリア内とエリア外で、把握するネットワーク構成の詳細さが違います。「エリア内は詳しく、エリア外は概要だけ」
- OSPFエリアはバックボーンエリア(エリア0)を中心とする2階層構成にしなければいけません。
- 企業ネットワークでは、拠点間を接続するWANの部分をバックボーンエリアとします。
OSPFの仕組み
- OSPFとは? 初心者にもわかりやすくOSPFの特徴を解説
- OSPFの処理の流れ
- OSPFルータID ~OSPFルータを識別~
- OSPFルータのルータIDが重複してしまったら?
- OSPF ネイバーとアジャセンシー
- OSPF DR/BDR
- イーサネット上のshow ip ospf neighborの見え方
- OSPFネットワークタイプ ~OSPFが有効なインタフェースの分類~
- OSPF LSDBの同期処理
- 大規模なOSPFネットワークの問題点
- OSPFエリア ~エリア内は詳しく、エリア外は概要だけ~
- OSPFルータの種類
- OSPF LSAの種類
- OSPF エリアの種類
- OSPFの基本的な設定と確認コマンド [Cisco]
- インタフェースでOSPFを有効化することの詳細
- OSPF ループバックインタフェースのアドバタイズ
- OSPF Hello/Deadインターバルの設定と確認コマンド
- OSPFコストの設定と確認
- OSPFルータプライオリティの設定と確認コマンド
- OSPFネイバー認証の設定 ~正規のルータとのみネイバーになる~
- バーチャルリンク上のネイバー認証
- OSPF スタブエリアの設定と確認[Cisco]
- OSPF スタブエリアの設定例 [Cisco]
- OSPFデフォルトルートの生成 ~default-information originateコマンド~
- OSPFデフォルトルートの生成 ~スタブエリア~
- OSPF バーチャルリンク ~仮想的なエリア0のポイントツーポイントリンク~
- OSPF バーチャルリンクの設定と確認 [Cisco]
- OSPF バーチャルリンクの設定例 [Cisco]
- OSPF 不連続バックボーンのVirtual-link設定例
- OSPFのルート集約と設定
- OSPFルート集約の設定例(Cisco)
- OSPF ルート種類による優先順位
- OSPFネイバーの状態がExstartでスタックする原因
- OSPFパケットの種類とOSPFヘッダフォーマット
- OSPF Helloパケット
- OSPF DD(Database Description)パケット
- OSPF LSR(Link State Request)パケット
- OSPF LSU(Link State Update)パケット
- OSPF LSAck(Link State Acknowledgement)パケット
- OSPF 再配送ルートの制限 ~redistribute maximum-prefixコマンド~
- OSPFでのディストリビュートリスト/プレフィクスリストの動作
- OSPFでのディストリビュートリストの設定例 Part1
- OSPFでのディストリビュートリストの設定例 Part2
- OSPFのLSAフィルタの概要 ~LSAタイプ3/タイプ5をフィルタ~
- LSAタイプ3のフィルタ設定例
- LSAタイプ5のフィルタ設定例
- 3階層モデルLANのOSPFルーティング
- 演習:実践的なOSPFルーティング Part1:OSPFの基本設定
- 演習:実践的なOSPFルーティング Part2:デフォルトルートの生成
- 演習:実践的なOSPFルーティング Part3:スタブエリア
- 演習:実践的なOSPFルーティング Part4:ルート集約
- 演習:実践的なOSPFルーティング Part5:トラブルシューティング
- OSPF 設定ミスの切り分けと修正 Part1
- OSPF 設定ミスの切り分けと修正 Part2
- OSPF 設定ミスの切り分けと修正 Part3
- OSPF 設定ミスの切り分けと修正 Part4
- OSPF 設定ミスの切り分けと修正 Part5
- OSPF 設定ミスの切り分けと修正 Part6
- Cisco OSPFv3 for IPv4の設定と確認コマンド
- Cisco OSPFv3 for IPv4の設定例
- OSPFv3の設定例 [Cisco]
- OSPFv3 ルート集約の設定例 [Cisco]