目次
スタティックルートのメリット
スタティックルートのメリットとして、次の点が挙げられます。
- ルーティングプロトコルの知識が不要
スタティックルートの設定自体はシンプルで、特別な知識は必要ありません。 - ルーティングテーブルが意図せずに書き換わってしまう心配がほとんどない
スタティックルートは管理者が明示的に設定するので、意図しないでルーティングテーブルが書き換わってしまうことはほとんどありません。 - ルートを厳密に決められる
目的のネットワークまでの複数のルートが存在している場合、スタティックルートを利用すれば管理者が意図したルートでIPパケットをルーティングすることができます。ルーティングプロトコルでも可能ですが、ルーティングプロトコルごとに追加の設定が必要です。 - ルータやネットワークに負荷をかけない
スタティックルートを設定してもルータは、追加の処理を行いません。またルート情報をネットワークに送信しません。そのため、ネットワークやルータに余分な負荷をかけずにすみます。
スタティックルートのデメリット
一方、スタティックルートのデメリットは次の通りです。
- 管理者の負荷が大きい
スタティックルートだけでルーティングテーブルにルート情報を登録するには、すべてのルータで、各ルータにとってのリモートネットワークのルート情報を設定しなければいけません。多くのルータで構成される大規模なネットワークでは、設定が煩雑になり管理者の負荷が非常に大きくなります。 - ネットワーク構成の変更を自動的に反映できない
新しいネットワークが追加されたり、障害発生などでネットワークの構成が変更しても、スタティックルートではルーティングテーブルを自動的に変更することができません。障害が起こって経路を切り替えたいときには、手作業で関連するルータのルーティングテーブルを更新しなければいけません。ネットワークを冗長化していたとしても、スタティックルートだと、障害に応じて自動的にルーティングテーブルを書き換えて経路を切り替えることが困難です。
スタティックルートの利用
スタティックルートを利用するのは、主に以下のような場合です。
- 小規模なネットワークでルータやネットワークの数があまり多くない
- 冗長化されていない
- ネットワーク管理範囲の違いで共通したルーティングプロトコルを利用できない
スタティックルートの利用: 小規模なネットワークでルータやネットワークの数があまり多くない/冗長化されていない
スタティックルートを利用するケースとして、よく説明されるのが「小規模なネットワークでルータやネットワークの数があまり多くない」「冗長化されていない」ネットワークです。これは、前述のスタティックルートのデメリットの影響があまり大きくないネットワークです。
小規模なネットワークであれば、スタティックルートの設定はそれほど面倒ではありません。設定しなければいけない対象のルータの数も、ネットワークの数も少ないからです。そして、小規模なネットワークは冗長化などしないシンプルな構成であることがほとんどです。そのため、障害発生時に経路を切り替えるために手作業でルーティングテーブルを更新する必要がありません。
小規模なネットワークであれば、スタティックルートのデメリットがあまり大きな影響を及ぼしません。そのため、「小規模なネットワークでスタティックルートを利用する」ことが一般的です。
スタティックルートの利用: ネットワーク管理範囲の違いで共通したルーティングプロトコルを利用できない
ルーティングプロトコルを利用するときには、他のルータと共通のルーティングプロトコルを利用しなければいけません。完全に自社だけで管理しているルータなら、共通のルーティングプロトコルを利用することは難しくありません。
ですが、自社の管理範囲外のルータと接続していると、そのルータと共通のルーティングプロトコルを利用することは難しくなります。その典型的な例がインターネットへの接続です。インターネットへ接続するときに、ISPのルータと接続します。ISPのルータに自社で利用しているOSPFなどのルーティングプロトコルの利用を強制できません。そのため、スタティックルートを利用せざるを得ないようになります。
まとめ
ポイント
メリット | デメリット |
---|---|
ルーティングプロトコルの知識が不要 | 管理者の負荷が大きい |
ルーティングテーブルが意図せずに書き換わってしまう心配がほとんどない | ネットワーク構成の変更を自動的に反映できない |
ルートを厳密に決められる | |
ルータやネットワークに負荷をかけない |
- スタティックルートは、次のようなケースで利用することが多くなっています。
- 小規模なネットワークでルータやネットワークの数があまり多くない
- 冗長化されていない
- ネットワーク管理範囲の違いで共通したルーティングプロトコルを利用できない
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