目次
ルーティングテーブルのトラッキングとは
ルーティングテーブルの状態を監視して、HSRPのアクティブルータやVRRPのマスタルータを切り替えることができます。これにより、ネットワーク構成の変化に応じて、より柔軟にアクティブルータおよびマスタルータを切り替えられます。
ルーティングテーブルのトラッキングを行うには、ルーティングテーブルの状態の監視するトラッキングオブジェクトを設定します。そして、オブジェクトがダウンするとHSRP/VRRPのプライオリティを下げます。その結果、アクティブ/マスタルータを切り替えます。
ルーティングテーブルのトラッキングの設定手順
ルーティングテーブルの状態をトラッキングするための設定手順は次の2つです。
- ルーティングテーブルを監視するトラッキングオブジェクトの設定
- トラッキングオブジェクトを関連付け
ルーティングテーブルを監視するトラッキングオブジェクトの設定
ルーティングテーブルを監視するトラッキングオブジェクトとして、主に以下の2つの設定ができます。
- 特定のルート情報が存在しているかどうか
- ルート情報のメトリックのしきい値
特定のルート情報が存在しているかどうか
ルーティングテーブル上のルート情報が存在するかどうかを監視するトラッキングオブジェクトを設定します。グローバルコンフィグレーションモードで次のコマンドを入力します。
(config)#track <object-id> ip route <network> <subnetmask> reachability
<object-id> : オブジェクトID
<network> : ネットワークアドレス
<subnetmask> : サブネットマスク。プレフィクス表記でも10進表記でもOK
ルート情報のメトリックのしきい値
ルーティングテーブル上の特定のルート情報のメトリックのしきい値を決めて、しきい値を超えるとオブジェクトがダウンします。ルーティングテーブルには、宛先ネットワークまでの最適ルートが登録されているはずです。ルート情報のメトリックが大きくなるということは、最適ルートが切り替わったことを意味します。たとえば、以下のネットワーク構成を考えます。
ルーティングプロトコルとしてOSPFを利用していると、R1の正常時のルーティングテーブルの192.168.100.0/24のルート情報のメトリックは2です。
R1のFa0/1がダウンすると、ルーティングテーブルの192.168.100.0/24のルート情報が更新されます。ネクストホップが192.168.12.252となり、メトリックは3です。最適ルートが切り替わると、メトリックが2から3に増えることになります。
こうした最適ルートの切り替えによるメトリック値の変化を監視するために、トラッキングオブジェクトを設定します。グローバルコンフィグレーションモードで次のコマンドを入力します。
(config)#track <object-id> ip route <network> <subnetmask> metric threshold
(config-track)#threshold metric up <up-threshold> [down <down-threshold>]
<object-id> : オブジェクトID
<network> : ネットワークアドレス
<subnetmask> : サブネットマスク。プレフィクス表記でも10進表記でもOK
<up-threshold> : Upのしきい値
<down-threshold> : Downのしきい値
ルート情報のメトリック値が<up-threshold>~<down-threshold>の間であれば、トラッキングオブジェクトはUpの状態です。メトリック値が<down-threshold>を超えると、オブジェクトはDownの状態です。
指定するメトリック値は、スケール化します。スケール化するパラメータは、show track resolutionコマンドで確認できます。
R1#show track resolution Route type Metric Resolution static 10 EIGRP 2560 OSPF 1 ISIS 10
OSPFの場合は、ルート情報のメトリックをそのまま指定すればOKです。EIGRPの場合は、ルート情報のメトリック/2560で指定します。
トラッキングオブジェクトを関連付け
Cisco HSRP
ルーティングテーブルの状態を監視するトラッキングオブジェクトを設定したら、HSRPの設定でオブジェクトを関連付けます。オブジェクトがダウンしたときに下げるプライオリティの値を指定します。
(config)#interface <interface-name>
(config-if)#standby <group-num> track <object-id> [decrement <decrement>]
(config-if)#standby <group-num> preempt
<interface-name> : インタフェース名
<group-num> : HSRPグループ番号
<object-id> : オブジェクトID
<decrement> : 下げるプライオリティ値
プライオリティを下げてアクティブルータを切り替えるようにするので、プリエンプトの設定も必要です。
関連記事
Cisco HSRPでルーティングテーブルの状態を監視するオブジェクトトラッキングの設定例は、以下の記事をご覧ください。
VRRP
VRRPを利用しているときも考え方はHSRPと同じです。VRRPの設定でルーティングテーブルを監視しているオブジェクトを関連付けます。その際に、オブジェクトがダウンしたときに下げるプライオリティの値を指定すればよいだけです。VRRPでは、デフォルトでプリエンプトが有効化されているので、プリエンプトの設定は不要です。
(config)#interface <interface-name>
(config-if)#vrrp <virtual-router-id> track <object-id> [decrement <decrement>]
<interface-name> : インタフェース名
<virtual-router-id> : VRRP仮想ルータID
<object-id> : オブジェクトID
<decrement> : 下げるプライオリティ値
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VRRPでルーティングテーブルの状態を監視するオブジェクトトラッキングの設定例は、以下の記事をご覧ください。
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