平成15年度テクニカルエンジニア(ネットワーク)午後Ⅰ 問1設問3解答と解説

目次

解答

(1)広域イーサ網内で支店のアクセス回線速度を超えるトラフィックが
廃棄されている(37字)

(2)支店のアクセス回線を本店と同じ速度に増速する(22字)

解説

(1)
支店のアクセス回線速度が本店のアクセス回線速度よりも遅いとなぜ音声品質
の劣化につながるのでしょうか?それはアクセス回線の速度差が、広域イーサ
網内でのパケット廃棄につながるからです。

H15A1-1-3pic1.JPG

上の図を見てみましょう。本店は10Mで契約しているので、データを10Mで送信
することができます。広域イーサ網内も当然10Mで転送されます。ところが、
支店への入り口は0.5Mしかありません。10Mのデータが流れ込んできているのに、
土管は0.5Mしか無い。こういった場合は、0.5Mを超える分のフレームは広域
イーサ網内で廃棄されてしまいます。(ある程度はエッジSWでバッファリング
されるかもしれませんが、この場合は遅延が大きくなります)いずれにせよ
これは音声通話においては致命的です。ユーザからみてみると、音がぷつぷつ
切れ、携帯電話で電波が悪い時のような状態になります。

専用線やFRのように論理的に1対1で帯域が保障されるWANでは問題になりま
せんが、IP-VPNや広域イーサはこういった回線の速度差を考慮する必要があ
ります。また、アクセス回線の速度が同じであっても、1つの拠点が複数の
拠点と同時に通信する場合はトラフィックが集中するポイントでパケット廃
棄が起こることがあります。
例えば、アクセス回線が1Mビット/秒のA、B、Cという3拠点があったとします。
アクセス回線が同じ速度であるため、拠点同士が1対1で通信している時には
パケット廃棄は起こりません。しかしA、Bの両拠点から同時に1Mビット/秒を
C拠点に対して送信すれば、2Mビット/秒のトラフィックがC拠点に流れ込み
ます。この場合、1Mビット/秒を超える分のトラフィックは広域イーサで廃棄
されてしまいます。こういったパケット廃棄も起こりうることも考慮して設計
の際は注意が必要です。ただしT社の新ネットワークのように、各種サーバ類
が1箇所に集中している場合は、トラフィックの流れもスター型になるためあ
まり問題になりません。

問題で問われているのは、アクセス回線の速度差によるパケット廃棄(上の
図)の状態ですね。これを40字以内でまとめると

広域イーサ網内で支店のアクセス回線速度を超えるトラフィックが廃棄され
ている(37字)

となります。

(2)
S君の検討案では、本店のアクセスが10Mビット/秒ですが、支店のアクセス
回線は0.5Mビット/秒しかありません。この場合、上の(1)でも解説したよう
に、END~ENDで考えると0.5Mビット/秒を超えるトラフィックは廃棄されて
しまいます。これを防ぐためには、支店のアクセス回線を本店と同じ速度
まで増速してしまえばよいでしょう。そうすればアクセス回線の速度差が
なくなるため、広域イーサ網内でのパケット廃棄を防ぐことができます。

H15A1-1-3pic2.JPG

他にも、アクセス回線は増速せずに、その代わりに本店に帯域制御装置を
設置するという構成も考えられます。帯域制御に特化した機能を持つ装置
なので、広域イーサへの出力で音声パケットを優先し、かつ拠点毎に帯域
を0.5Mビット/秒に絞ることも可能です。これによりアクセス回線に速度
差がボトルネックになることなく、音声品質を保つことができます。

H15A1-1-3pic3.JPG

しかし本文の中に

ルータの広域イーサ側への出力において、音声パケットを優先して出力する
ための機能を設定する。

とあるため、帯域制御装置を設置する案はふさわしくありません。帯域管理
装置を設置した場合、ルータで優先制御を設定する必要が無く、本文と矛盾
するからです。
よって回答としては

支店のアクセス回線を本店と同じ速度に増速する(22字)

となります。