目次
概要
「インターネットにつながっていないと何もできない」というぐらい、今やインターネット接続は非常に重要です。そのため、インターネット接続の冗長化を検討することも重要です。インターネット接続を冗長化するマルチホームの概要について解説します。
マルチホームとは
マルチホームとは、インターネット接続を冗長化することを意味します。企業の社内ネットワークをインターネットへ接続するには、ISPと接続します。マルチホームとは、ISPとの間で複数のリンクを保持することになります。
なお、インターネット接続サービスを提供するISP自体もマルチホーム接続をしています。ここでは一般の企業ネットワークのインターネット接続の冗長化のみを考えます。企業ネットワークも1つのASとして考えると、このような接続形態はマルチホーム非トランジットASと呼びます。非トランジットとは、自ASに関係ない通信を通過させないという意味です。ISPは、マルチホームトランジットASです。
単にインターネット接続回線を冗長化するだけでは、障害時の切り替えや正常時の負荷分散を実現することはできません。ルーティングの制御が必要です。ISPとの間では、OSPFなどのIGPを利用することはできず、BGPによってルーティングの制御を行います。
上図では、1台のルータが複数のISPに接続しています。これではインターネット接続ルータがダウンすると、インターネット接続ができなくなります。複数のルータが複数のISPに接続する接続形態もあります。複数のルータを用いた方が、より高い信頼性を確保することができます。
なお、以降では、マルチホーム非トランジットASを単に「マルチホームAS」と表記します。
マルチホームASを考えるポイント
単にISPとの接続を冗長化して、BGPネイバーの設定をするだけでマルチホームASを実現することはできません。マルチホームASを実現するためには、主に次の3点のBGP制御を考慮してください。
- ルートフィルタ
- ベストパスの選択
- IGPとBGPの連携
この記事では、これら3つの考慮事項の概要だけを扱います。
ルートフィルタ
自ASに関係ない通信を通過させないようにする非トランジットのために、適切なルートフィルタをかける必要があります。自ASからISPへアドバタイズするBGPルートは、自ASのルートのみに限定します。
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ベストパスの選択
複数のISPとの接続のうち、どの接続を優先するかを考えます。そのために、BGPルートのパスアトリビュートによるベストパスの選択を考慮します。ベストパスの選択の際に、通信は双方向であるということを忘れないようにしてください。すなわち、「自ASからインターネット宛て」と「インターネットから自AS宛て」の2つの方向があります。そして、それぞれの方向を制御するために利用するBGPルートのパスアトリビュートは以下の通りです。
- 自ASからインターネット宛て : LOCAL_PREFERENCE
- インターネットから自AS宛て : MED
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IGPとBGPの連携
自AS内のすべてのルータでBGPを利用することはほとんどありません。自AS内、すなわち社内ネットワークではOSPFなどのルーティングプロトコルを利用しています。そのため、BGPでISPから学習したインターネットのルート情報を自AS内で利用しているIGPへ再配送する必要があります。
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まとめ
ポイント
- 「マルチホーム」とはインターネット接続を冗長化することです。
- 一般の企業のマルチホーム接続は、自ASに関係ない通信を通過させないマルチホーム非トランジットASです。
- マルチホームASでは、以下の3点を考慮します。
- ルートフィルタ
- ベストパスの選択
- IGPとBGPの連携
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