レイヤ3のマルチキャストアドレス

アドレスは階層ごとにきちんと考えていくことが大事です。まず、マルチキャストで利用するレイヤ3のアドレスを見ていきましょう。

レイヤ3のマルチキャストアドレスは、クラスDのIPアドレスです。クラスDのIPアドレスはIPマルチキャストアドレスと呼ぶこともあります。クラスDのIPアドレスは32ビットのビット列の先頭4ビットが「1110」で始まります。残り28ビットでマルチキャストグループを識別するという構成です。

図 IPマルチキャストアドレス
図 IPマルチキャストアドレス

ドット付き10進表記で考えると、マルチキャストアドレスは次のとおりです。

IPマルチキャストアドレスの範囲

「224.0.0.0~239.255.255.255」

たくさんのマルチキャストアドレスがありますが、マルチキャストを利用してデータを送信する範囲(スコープ)によって、次の分類があります。

  • リンクローカル
  • グローバルスコープ
  • ローカル(プライベート)スコープ

リンクローカルマルチキャストアドレス

リンクローカルマルチキャストアドレスとは、同じサブネット上でルーティングプロトコルなどの制御情報を送信するために利用するアドレスです。リンクローカルマルチキャストアドレスが指定されているマルチキャストパケットのTTLは1です。そのため、たとえマルチキャストルーティングが有効なルータでもルーティングしません。

リンクローカルマルチキャストアドレスの範囲は、以下のようになります。

  • 224.0.0.0~224.0.0.255

リンクローカルマルチキャストアドレスは予約されています。主な予約済みのリンクローカルマルチキャストアドレスは次の表にまとめています。

リンクローカルマルチキャストアドレス意味
224.0.0.1サブネット上の全マルチキャスト対応ホスト
224.0.0.2サブネット上の全ルータ
224.0.0.5全OSPFルータ
224.0.0.6全OSPF DR/BDR
224.0.0.9全RIPv2ルータ
224.0.0.10全EIGRPルータ
224.0.0.13全PIMルータ
224.0.0.18全VRRPルータ
表 主なリンクローカルマルチキャストアドレス

グローバルスコープ、プライベートスコープ

リンクローカルマルチキャスト以外のアドレスは、さまざまなアプリケーションが利用するマルチキャストグループアドレスです。その中で、グローバルスコープのマルチキャストアドレスは次のとおりです。

  • 224.1.0.0~238.255.255.255

グローバルスコープのマルチキャストアドレスは、インターネット上で利用できるアプリケーションなどさまざまなアプリケーションのために定義されています。

残りのマルチキャストアドレスがプライベートスコープです。

  • 239.0.0.0~239.255.255.255

プライベートスコープは、組織内のネットワーク(プライベートネットワーク)での利用を想定しているマルチキャストグループアドレスです。

レイヤ2のマルチキャストアドレス

イーサネットのアドレス情報としてMACアドレスがあります。MACアドレスにもマルチキャストのアドレスがあります。マルチキャストのMACアドレスはI/G(Individual/Group)ビットが「1」であるアドレスです。I/Gビットは、MACアドレスの先頭1バイト目の最下位ビットです。

図 マルチキャストMACアドレス
図 マルチキャストMACアドレス

マルチキャストのMACアドレスも非常にたくさんあります。その中でIPマルチキャストアドレスに対応付けられているMACアドレスが定義されています。
IPマルチキャストアドレスに対応付けられるMACアドレスは、先頭から25ビットが「0000 0001 0000 0000 0101 1110 0」というビットです。残り23ビットはIPマルチキャストアドレスの下位23ビットという構成です。定義されている25ビットのうち24ビット分を16進数で考えると「01-00-5E」となります。下記の図は、IPマルチキャストアドレスとMACアドレスの対応関係を示したものです。

図 IPマルチキャストアドレスに対応するMACアドレス
図 IPマルチキャストアドレスに対応するMACアドレス

具体的にIPマルチキャストアドレスとそれに対応するMACアドレスの例を考えます。

  • 239.1.1.1 → 01-00-5E-01-01-01
  • 224.1.2.3 → 01-00-5E-01-02-03
  • 239.129.1.1 → 01-00-5E-01-01-01
  • 225.1.2.3 → 01-00-5E-01-02-03

(1)の239.1.1.1に対するMACアドレスと(3)の239.129.1.1に対するMACアドレスが同じものになりました。同様に(2)と(4)のIPマルチキャストアドレスに対するMACアドレスも同じです。

このようにIPマルチキャストアドレスとMACアドレスは1対1に対応付けられるわけではないので、注意してください。IPマルチキャストアドレスは28ビットでグループを識別することができるのに対して、MACアドレスでは23ビット分のみです。失われた5ビット分のIPマルチキャストアドレスが1つのMACアドレスに対応付けられます。5ビット失われているので、IPマルチキャストとMACアドレスは32対1の対応です。

IPマルチキャストの仕組み