目次
Anycast RPの設定
Anycast RPの設定手順は次のようになります。
- 複数のRPにAnycastアドレスを設定する
- Anycastアドレスをルーティングプロトコルでアドバタイズする
- 各マルチキャストルータでAnycastアドレスをRPアドレスとして設定する
- 複数のRP間でMSDPピアを設定する
1.~3.までは、何も特別な設定ではありません。普通のIPアドレスの設定とルーティングプロトコル、RPの設定です。Anycastアドレスとして設定するIPアドレスはループバックインタフェースにサブネットマスクを/32で設定することが多いです。ただし、OSPFやBGPなどのルータIDには注意が必要です。AnycastアドレスがルータIDになってしまうと、ルータIDが重複して正しくルーティングできなくなってしまいます。AnycastアドレスがルータIDに選ばれないように、ルータIDをスタティックに設定するなど注意してください。そして、AnycastアドレスをRPアドレスとして設定するのは、スタティックでもAuto RP/BSRでも構いません。
RPアドレスの設定について、以下の記事をご覧ください。
MSDPピアの設定
4.のMSDPピアの設定についてのコマンドの構文は次の通りです。
(config)#ip msdp peer < ip-address > [connect-source < interface >]
< ip-address > : MSDPピアのIPアドレス
connect-source < interface > : MSDPパケットの送信元IPアドレスとして利用したいインタフェースの指定
Anycast RPにおいてMSDPピアの設定する際は、ピアを設定するIPアドレスに注意してください。MSDPピアのIPアドレスはAnycastアドレスではありません。AnycastアドレスはRPアドレスとして利用するためのものです。RP間で共有していないIPアドレスでMSDPピアを設定してください。
また、MSDPピアのIPアドレスとして、ネットワークの冗長性を活かすためにループバックインタフェースのIPアドレスを利用することが一般的です。複数のRPでAnycastアドレスではない普通のIPアドレスを設定しているループバックインタフェースを作成して、MSDPピアとして指定してください。そして、MSDPピアの設定の考え方はBGPネイバーとよく似ています。MSDPピアとなるルータがお互いきちんと設定できていなければいけません。つまり、MSDPパケットの送信元IPアドレスが設定しているMSDPピアのIPアドレスと一致していなければいけません。そこで、ループバックインタフェースのIPアドレスでMSDPピアを設定するときには、connect-sourceのオプションで送信元IPアドレスとしてどのインタフェースのIPアドレスを利用したいかを指定します。ちょうどBGPネイバーのneighbor update-sourceコマンドと同じ考え方です。
また、Anycast RPでMSDPピアの設定には、追加で次のコマンドが必要です。
(config)#ip msdp originator-id < interface >
< interface > : MSDP SAメッセージのOriginator-idとして利用するインタフェースの指定
ドメイン間のマルチキャストをSAメッセージでカプセル化して転送する場合、デフォルトでOriginator-idはRPアドレスとなります。Anycast RPでは、RPアドレスとして複数のRPで共有しているAnycastアドレスを使っているので、変更しなければいけません。そこで、ip msdp originator-idコマンドによってOriginator-idとしてMSDPピアを確立するループバックインタフェースに変更します。
MSDPピアの設定例
次の図のネットワーク構成で、Anycast RPにおけるMSDPピアの簡単な設定例を考えます。
この図の構成でRP1、RP2の設定は次のように行います。
R1
interface loopback 0 ip address 1.1.1.1 255.255.255.255 interface loopback 1 ip address 10.1.1.1 255.255.255.255 ip msdp peer 10.1.1.2 connect-source loopback1 ip msdp originator-id loopback1 ip pim rp-address 1.1.1.1
R2
interface loopback 0 ip address 1.1.1.1 255.255.255.255 interface loopback 1 ip address 10.1.1.2 255.255.255.255 ip msdp peer 10.1.1.1 connect-source loopback1 ip msdp originator-id loopback1 ip pim rp-address 1.1.1.1
上記の設定例のように複数のRPで
- RPアドレスとしてAnycastアドレスを指定
- AnycastアドレスではないループバックインタフェースでMSDPピアの設定
を行います。
Anycast RPの確認コマンド
Anycast RPの設定や動作を確認するには、通常のPIM-SMの確認コマンドに加えて、MSDPピアを確認するための次のshowコマンドを利用します。
- show ip msdp summary
- show ip msdp peer
以下、showコマンドの出力例です。
show ip msdp summary
R4-PIM#show ip msdp summary MSDP Peer Status Summary Peer Address AS State Uptime/ Reset SA Peer Name Downtime Count Count 3.3.3.3 ? Up 00:02:44 0 0 ?
show ip msdp peer
R4-PIM#show ip msdp peer MSDP Peer 3.3.3.3 (?), AS ? Description: Connection status: State: Up, Resets: 0, Connection source: Loopback0 (4.4.4.4) Uptime(Downtime): 00:00:39, Messages sent/received: 1/1 Output messages discarded: 0 Connection and counters cleared 00:01:16 ago SA Filtering: Input (S,G) filter: none, route-map: none Input RP filter: none, route-map: none Output (S,G) filter: none, route-map: none Output RP filter: none, route-map: none SA-Requests: Input filter: none Sending SA-Requests to peer: disabled Peer ttl threshold: 0 SAs learned from this peer: 0 Input queue size: 0, Output queue size: 0
PIM-SMの確認コマンドは、以下の記事をご覧ください。
具体的なネットワーク構成でのAnycast RPの設定例は、以下の記事をご覧ください。
IPマルチキャストの仕組み
- ユニキャスト/ブロードキャスト/マルチキャストの振り返り
- IPマルチキャストの用途 ~同じデータの同報~
- マルチキャストグループへの参加 ~マルチキャストデータを受信できるようにする~
- マルチキャストアドレス ~レイヤ3とレイヤ2のマルチキャストアドレス~
- IGMPの概要 ~マルチキャストグループへの参加を通知~
- IGMPの仕組み
- IGMPの設定と確認コマンド
- IGMPスヌーピング
- マルチキャストルーティングの概要
- ディストリビューションツリー
- RPFチェック
- PIM-DMの仕組み
- PIM-DMの設定と確認コマンド
- PIM-SMの仕組み ~ディストリビューションツリー作成~
- PIM-SMの仕組み ~ディストリビューションツリー作成例~
- PIM-SMの設定と確認コマンド
- PIM-SM ダイナミックなRPの設定 ~Auto RP/BSRの概要~
- PIM-SM AutoRPの設定例
- PIM-SM BSRの設定例
- Bidirectional PIMの設定と確認コマンド
- PIM SSMの設定と確認コマンド
- PIM-SMの設定演習 [スタティックRP]
- PIM-SMの設定演習 [Auto RP]
- PIM-SMの設定演習 [BSR]
- PIM-SMの設定演習 [Bidirectional PIM]
- PIM-SMの設定演習 [SSM]
- PIM-SMの設定演習 [トラブルシュート]
- Anycast RP ~RPの負荷分散~
- Anycast RPの設定と確認コマンド
- Anycast RPの設定例
- マルチキャストパケットの転送経路の制御 ~ip mrouteコマンド~
- ip multicast rate-limitコマンド ~マルチキャストパケットのレート制限~
- ip multicast rate-limitコマンドの設定例
- IGMPレポートの制限
- PIM-SM 設定ミスの切り分けと修正 Part1
- PIM-SM 設定ミスの切り分けと修正 Part2
- PIM-SM 設定ミスの切り分けと修正 Part3