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PVST(Per VLAN Spanning Tree)とは
IEEE802.1Dの標準のスパニングツリーでは、スイッチ全体で1つのスパニングツリーのトポロジを構成します。スイッチ全体で1つのスパニングツリートポロジを構成することをCST(Common Spanning Tree)と呼びます。現在のLANでは、VLANを利用することが当たり前になっています。CSTでは、VLANによってはイーサネットフレームの転送経路が最適ではなくなってしまいます。
PVSTは、その名前のとおり、VLANごとのスパニングツリーを構成します。VLAN単位でスパニングツリーのトポロジを構成して、VLANごとに最適なイーサネットフレームの転送経路を決めることができます。そのため、PVSTによりVLAN単位でイーサネットフレームの転送の負荷分散を実現することができます。
PVSTの例
PVSTによる負荷分散の例が次の図です。
この図のSW1~SW3ではVLAN1とVLANを作成していて、スイッチ間はトランク接続です。VLANごとのスパニングツリーの構成を考えると、VLAN1ではSW2のプライオリティが4096なのでルートブリッジとなります。その結果、SW1 ポート1はルートポートです。VLAN1ではポート2よりもポート1の方がルートブリッジに近い、つまりパスコストが小さくなるからです。ポート2は非代表ポートでループ防止のためにブロッキング状態になります。
一方、VLAN2ではSW3のプライオリティが4096なのでルートブリッジです。そして、SW1 ポート2がルートポートで、ポート1が非代表ポートです。
このようにPVSTでは、1つのポートの役割がVLANごとに決まることになります。そして、VLANごとのポートの役割が必ずしも同じではなく、変わる場合があります。SW1、SW2、SW3についてポートの役割をVLANごとにまとめると、次のようになります。
SW1
VLAN | ポート1 | ポート2 | 備考 |
VLAN1 | ルートポート | 非代表ポート | ポート1のルートパスコストが小さい |
VLAN2 | 非代表ポート | ルートポート | ポート2のルートパスコストが小さい |
SW2
VLAN | ポート1 | ポート2 | 備考 |
VLAN1 | 代表ポート | 代表ポート | VLAN1のルートブリッジ |
VLAN2 | 代表ポート | ルートポート |
SW3
VLAN | ポート1 | ポート2 | 備考 |
VLAN1 | ルートポート | 代表ポート | |
VLAN2 | 代表ポート | 代表ポート | VLAN2のルートブリッジ |
SW1はVLAN1のフレームをポート1で転送します。一方、VLAN2のフレームをポート2で転送します。SW1はVLANごとにフレームを転送するポートを分散させていることがわかります。
より効率よく負荷分散するMST
ただし、PVSTは多数のVLANが存在すると、スイッチに対する負荷が大きくなってしまいます。VLANを10個作成しているネットワーク構成であれば、PVSTを利用しているレイヤ2スイッチは10個分のBPDUをやり取りして、10個分のスパニングツリーの計算をします。多数のVLANがあっても、イーサネットフレームの転送経路はそれほどたくさんあるわけではありません。それぞれのVLANごとにスパニングツリーの計算を行うのは、スイッチの処理負荷が大きくなるだけです。
そこで、PVSTよりも効率よくイーサネットフレームの転送の負荷分散を行うためにIEEE802.1s MSTがあります。MSTでは、複数のVLANをグループ化して、VLANのグループごとにスパニングツリーの計算を行うことができます。
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