DUALの用語

DUAL(Diffusing Update Algorithm)は、EIGRPでの最適ルートを決定したり、バックアップルートを選択したりするためのアルゴリズムです。DUALの仕組みを知るためには、DUALで利用する用語を把握しておかなければいけません。DUALの仕組みを知るための重要な用語は以下のとおりです。

  • AD(Advertised Distance) またはRD(Reported Distance)
  • FD(Feasible Distance)
  • サクセサ(Successor)
  • フィージブルサクセサ(Feasible Successor)
  • フィージビリティ条件
  • Passive/Active状態

AD(Advertised Distance) またはRD(Reported Distance)

あるルータのネイバーから目的のネットワークまでのメトリックを意味します。すなわち、ネイバーから送信されるEIGRPルートのメトリック値がADとなります。

略称のADはAdministrative Distanceと紛らわしくなるので、RDと表記することもあります。

FD(Feasible Distance)

ルータから目的のネットワークまでのメトリックを意味します。ネイバーから受信したメトリックであるADとルートを受信したインタフェースを考慮して、FDを計算します。

サクセサ(Successor)

あるルータから目的のネットワークまでの最適ルートをサクセサと呼びます。FDが最小のルートがサクセサとなり、ルーティングテーブルにEIGRPのルートとして登録されるようになります。FDが最小のルートが複数ある場合は、その複数のルートがサクセサとなり、ルーティングテーブルに登録できます。これにより、等コストロードバランスが可能です。

フィージブルサクセサ(Feasible Successor)

サクセサのバックアップがフィージブルサクセサです。サクセサがダウンすると、すぐにフィージブルサクセサが新しいサクセサになり、ルーティングテーブルをコンバージェンスさせることができます。

あるルータから目的のネットワークまで複数のルートがあっても、必ずしもフィージブルサクセサが選ばれるわけではありません。フィージブルサクセサとして選ばれるためには、フィージビリティ条件を満足する必要があります。

フィージビリティ条件

フィージブルサクセサを選出するための条件をフィージビリティ条件と呼びます。フィージビリティ条件は以下のように表されます。

フィージビリティ条件

サクセサのFD > フィージブルサクセサ候補のルートのAD

フィージビリティ条件を簡単にいうと、フィージブルサクセサとなるネクストホップは目的のネットワークまで近い位置にいなければいけないということです。

フィージビリティ条件は、=では満足できません

Passive/Active状態

EIGRPトポロジテーブル上のルートの状態としてPassive状態、Active状態があります。Passive状態が安定している状態です。Active状態はサクセサがダウンして、代替ルートをQueryパケットで問い合わせている状態です。

DUALの用語を理解するための例

FDとAD(またはRD)、サクセサ、フィージブルサクセサの具体的な例として、以下の図のネットワーク構成考えます。

図 7 FDとADの例
図 FDとADの例

FDとAD

R1から192.168.1.0/24への経路としてR2経由とR3経由の2つあります。R2、R3はEIGRPのルート情報として192.168.1.0/24をR1へ送信しています。R2、R3が送信するルート情報に含まれるメトリックの値がADです。図の例では、R2から送信された192.168.1.0/24のルート情報のメトリックが1000なので、R1のトポロジテーブル上ではR2から受信した192.168.1.0/24のADが1000となります。同じように考えて、R3から送信された192.168.1.0/24のルート情報のメトリックが1400なので、R1のトポロジテーブルのR3から受信した192.168.1.0/24のADは1400です。

そして、FDはR1がEIGRPルート情報を受信したインタフェースの帯域幅や遅延も含めて計算したメトリック値です。図の例では、話を簡単にするために、ADにインタフェースのメトリックを単純に足しあわせています。R2から受信した192.168.1.0/24のルートのFDは1500で、R3から受信した192.168.1.0/24のルートのFDは1900です。

サクセサとフィージブルサクセサの決定

R1から192.168.1.0/24へパケットをルーティングするには、R2経由とR3経由の2つのルートがあります。2つのうち最適ルートをサクセサとして選びます。サクセサを選ぶにはFDを比較します。FDが最小のルートがサクセサです。この例の場合、R2経由のルートのFDが1500で最小となるので、R2経由のルートがサクセサです。

そして、フィージブルサクセサを選びます。2つのルートがあるからといって、必ずフィージブルサクセサが存在するわけではありません。フィージブルサクセサとして選ばれるかどうかは、フィージビリティ条件を満足している必要があります。サクセサのFDよりもフィージブルサクセサ候補のルートのADが小さくなければいけません。サクセサであるR2経由のルートのFDは1500です。そして、フィージブルサクセサ候補のルートはR3経由のルートです。このルートのADは1400なので、フィージビリティ条件を満足し、R3経由のルートはフィージブルサクセサです。

図 サクセサとフィージブルサクセサの決定
図 サクセサとフィージブルサクセサの決定

フィージブルサクセサになるためにフィージビリティ条件は、「ネイバーが目的のネットワークまでより近い位置にいる」と置き換えることができます。メトリックは目的のネットワークまでの距離をルーティングプロトコルごとに数値化したものです。

ADはネイバーにとってのFDです。フィージビリティ条件は、フィージブルサクセサ候補のネイバーが目的のネットワークまで、自身よりも近い位置にいるかどうかということを判断していることになります。

図 フィージビリティ条件
図 フィージビリティ条件

フィージビリティ条件は、=では満足できません。