OSPFエリアの種類

OSPFのネットワークをエリアに分割することで、大規模なネットワークでOSPFを利用したルーティングを効率よく行うことができます。エリアには以下のようないくつかの種類があります。

  • バックボーンエリア
  • 標準エリア
  • スタブエリア
    • 標準スタブ
    • トータリースタブ
    • NSSA
    • トータリーNSSA

これらのエリアの特徴とエリア内に流れるLSAの種類について解説します。

バックボーンエリア

バックボーンエリアは、OSPFのエリアの中心となるエリアです。必ずバックボーンエリアを中心とした2階層にします。バックボーンエリアのエリアIDは0(0.0.0.0)です。そして、バックボーンエリアにアドバタイズされるLSAは、LSAタイプ1~タイプ5です。LSAタイプ1とLSAタイプ2は、エリア内の詳細を表しています。また、LSAタイプ3は他のエリアのネットワークアドレスを表しています。LSAタイプ4で非OSPFドメインとの境界になるASBRを表し、LSAタイプ5で非OSPFドメインのネットワークアドレスを表しています。

図 バックボーンエリア
図 バックボーンエリア

OSPFのエリアは、バックボーンエリアを中心とした2階層にしなければいけないのは、バックボーンエリアのLSAタイプ3の扱いにあります。LSAタイプ3は、他のエリアのネットワークアドレスを表しています。バックボーンエリアだけが、あるエリアのネットワークアドレスを表すLSAタイプ3をさらに別のエリアにアドバタイズします。これは、エリア間のルートがループしないようにするためです。

簡単な例として、以下の図を考えます。エリア1とバックボーンエリアを接続しているABRはR1です。また、R2がエリア2とバックボーンエリアを接続するABRです。R1は、エリア1内のネットワークアドレス10.1.1.0/24を表すLSAタイプ3を生成して、バックボーンエリアへアドバタイズします。そして、R2は、エリア2のLSDBにエリア0のネットワークアドレス10.0.1.0/24を表すLSAタイプ3とエリア1のネットワークアドレス10.1.1.0/24を表すLSAタイプ3を生成してアドバタイズします。

図 バックボーンエリアのLSAタイプ3の扱い方
図 バックボーンエリアのLSAタイプ3の扱い方

標準エリア

バックボーンエリアに接続するエリアが標準エリアです。標準エリアには、LSAタイプ1~タイプ5が流れます。原則として、標準エリアにさらに別のエリアを接続することはできません。

スタブエリア

スタブエリアは、エリア内に流れるLSAを集約しているエリアです。エリア内の詳細を表すLSAタイプ1/タイプ2のアドバタイズはバックボーンエリアや標準エリアと同じです。スタブエリアとすることで、他のエリアや非OSPFドメインについてのLSAタイプ3/タイプ4/タイプ5を集約します。

「スタブ」という言葉は、いろんな意味で使われています。ここでの「スタブ」は、小規模な拠点のネットワークと考えてください。小規模な拠点のネットワークは、たいていは冗長化されていません。出口となるABRは1台だけという場合がほとんどです。このようなスタブエリアのOSPFルータは、細かいLSAを持っていてもあまり意味はありません。スタブエリア外のネットワークにパケットをルーティングするときには、スタブエリアからの出口になるABRに転送すればいいだけです。そこで、スタブエリアにアドバタイズするLSAを集約してしまってもOKです。

また、スタブエリアには以下の制約があります。

  • ASBRを配置できない
  • バーチャルリンクのトランジットエリアにできない

前述のように、スタブエリアは小規模な拠点のネットワークを想定しています。そのようなスタブエリアの先に、他のエリアや非OSPFドメインのネットワークを接続することはないからです。スタブエリアはさらに以下のようにいくつか種類があります。

  • 標準スタブ
  • トータリースタブ
  • NSSA(Not So Stuby Area)
  • トータリーNSSA

標準スタブ

標準スタブは、非OSPFドメインネットワークを表すLSAタイプ5をアドバタイズしないようにしているエリアです。また、LSAタイプ5をアドバタイズしないのであれば、LSAタイプ4も不要です。標準スタブエリアには、エリア内の詳細を表すLSAタイプ1、LSAタイプ2と他のエリアのネットワークアドレスを表すLSAタイプ3がアドバタイズされます。

非OSPFドメインのネットワークはスタブエリアの外に存在しています。非OSPFドメインのネットワークにパケットをルーティングするときには、必ずABRに転送します。そのため、標準スタブエリアのOSPFルータは、LSAタイプ5を持っていてもあんまり意味がありません。細かいLSAタイプ5をアドバタイズしない代わりに、デフォルトルートをLSAタイプ3でアドバタイズします。つまり、非OSPFドメインのルートをデフォルトルートへ集約していることになります。

以下の図は、右下のエリア2を標準スタブとしているときに、アドバタイズされるLSAについて簡単にまとめています。

図 標準スタブ
図 標準スタブ

トータリースタブ

標準スタブエリアからアドバタイズするLSAをもっと削減したエリアがトータリースタブです。トータリースタブには、LSAタイプ4/5だけでなく他のエリアの個々のネットワークを表すLSAタイプ3もアドバタイズしません。すべてデフォルトルートに集約します。

他のエリアのネットワークにパケットをルーティングするときにも、結局はABRに転送するだけです。そのため、他のエリアのネットワークを表すLSAタイプ3も不要です。他のエリアのネットワークへの接続性を確保するために、トータリースタブエリアのABRはデフォルトルートをLSAタイプ3でアドバタイズします。

以下の図は、右下のエリア2をトータリースタブとしているときに、アドバタイズされるLSAについて簡単にまとめています。

図 トータリースタブ
図 トータリースタブ

トータリースタブはCisco独自と言われていますが、Cisco以外のベンダでも同様の設定が可能です。

NSSA

NSSAは、「ASBRを配置できない」というスタブエリアの制約を緩和しています。NSSA内にASBRを配置して、非OSPFドメインネットワークを接続できるようにしています。標準スタブでのLSAタイプ5およびLSAタイプ4をアドバタイズしないという特徴は同じです。

NSSAの先に非OSPFドメインのネットワークを接続して、ASBRで非OSPFドメインのルートをNSSAへ再配送します。その際、非OSPFドメインのネットワークを表すLSAタイプ7を生成します。LSAタイプ7は、NSSA内のみにアドバタイズされます。NSSAのABRは、LSAタイプ7をLSAタイプ5へ変換してバックボーンエリアにアドバタイズします。これにより、NSSA以外のOSPFルータは、NSSAの先に接続される非OSPFドメインネットワークへの接続性を確保できます。

なお、NSSAでは自動的にデフォルトルートを生成しません。NSSAにデフォルトルートを生成するには明示的な設定が必要です。

以下の図は、右下のエリア2をNSSAとしているときに、アドバタイズされるLSAについて簡単にまとめています。

図 NSSA

トータリーNSSA

トータリーNSSAは、トータリースタブのNSSAバージョンです。トータリーNSSにはNSSAと同じようにASBRを配置して、非OSPFドメインのネットワークを接続できます。そして、トータリースタブと同じように他のエリアのネットワークを表すLSAタイプ3をすべてデフォルトルートに集約します。

以下の図は、右下のエリア2をトータリーNSSAとしているときに、アドバタイズされるLSAについて簡単にまとめています。

図 トータリーNSSA

OSPFの仕組み