目次
ルータIDが重複したらどうなる?
OSPFでは、ルータIDによってそれぞれのルータを識別します。ルータIDは重複してしまってはいけません。デフォルトで決まるIPv4アドレスに由来するルータIDであれば、ルータIDが重複する心配はほとんどありません。ルータIDを手動設定するときには、重複しないように注意してください。
ここでは、「もし、ルータIDが重複したらどうなってしまうのか」について解説します。ルータIDが重複してしまっている状況を知っておけば、万が一、誤ってルータIDを重複する設定をしてしまってもすぐに対処できるしょう。Ciscoルータで以下のケースについて、あえてルータIDを重複させてみます。
- 同一ネットワーク上でルータIDが重複
- 同一エリア内でルータIDが重複
- 他のエリアでルータIDが重複
そもそもルータIDを割り当てられないとOSPFの処理はできない
ルータIDが重複した場合を考える前に、そもそもルータIDが割り当てられないとOSPFの処理ができないこともきちんと知っておきましょう。アクティブなインタフェースがない状態で、OSPFプロセスを有効化しようとすると、以下のようなエラーメッセージが表示されます。
*Mar 1 00:01:05.715: %OSPF-4-NORTRID: OSPF process 1 failed to allocate unique router-id and cannot start
「ユニークなルータIDを割り当てられないのでOSPFプロセスを起動できない」という意味です。
ネットワーク構成
以下の簡単なネットワーク構成で、OSPFルータIDを重複させます。
正常なOSPFについての設定
R1~R4のOSPFに関する設定の抜粋は以下の通りです。
R1
interface FastEthernet0/0 ip address 192.168.12.1 255.255.255.0 ! interface FastEthernet0/1 ip address 192.168.1.1 255.255.255.0 ! router ospf 1 router-id 1.1.1.1 log-adjacency-changes network 192.168.0.0 0.0.255.255 area 0
R2
interface FastEthernet0/0 ip address 192.168.12.2 255.255.255.0 ! interface FastEthernet0/1 ip address 192.168.23.2 255.255.255.0 ! router ospf 1 router-id 2.2.2.2 log-adjacency-changes network 192.168.0.0 0.0.255.255 area 0
R3
interface FastEthernet0/0 ip address 192.168.23.3 255.255.255.0 ! interface FastEthernet0/1 ip address 192.168.34.3 255.255.255.0 ! router ospf 1 router-id 3.3.3.3 log-adjacency-changes network 192.168.23.0 0.0.0.255 area 0 network 192.168.34.0 0.0.0.255 area 1
R4
interface FastEthernet0/0 ip address 192.168.34.4 255.255.255.0 ! interface FastEthernet0/1 ip address 192.168.4.4 255.255.255.0 ! router ospf 1 router-id 4.4.4.4 log-adjacency-changes network 192.168.0.0 0.0.255.255 area 1
関連記事
同一ネットワーク上でルータIDが重複
R1と同一ネットワーク上に接続されているR2のルータIDを2.2.2.2から1.1.1.1に変更します。
R2
router ospf 1 router-id 1.1.1.1
R1とR2のルータIDが重複してしまうと、すぐに以下のようなエラーメッセージが表示されます。
*Mar 1 00:40:33.911: %OSPF-4-DUP_RTRID_NBR: OSPF detected duplicate router-id 1.1.1.1 from 192.168.12.2 on interface FastEthernet0/0
同一ネットワーク上のOSPFルータとHelloパケットを交換します。そのため、ルータIDが重複してしまっているとすぐにわかります。
R2のルータIDをもとの2.2.2.2に戻しておきます。
R2
router ospf 1 router-id 2.2.2.2
同一エリア内でルータIDが重複
続いて、同一エリア内でルータIDが重複してしまっているときについて見ていきます。R1と同じエリア0のR3のルータIDを3.3.3.3から1.1.1.1に変更します。
R3
router ospf 1 router-id 1.1.1.1
直接Helloパケットをやり取りしないと、ルータIDが重複してしまっていることを検出するのに少し時間がかかります。同一エリア内でルータIDが重複してしまっていると、そのルータIDのLSA Type1がフラッピングします。LSA Type1のフラッピングが起こると、Sequence番号がどんどん増加していきます。何度かフラッピングを繰り返すと、ルータIDが重複してしまっていることを検出します。
R1でshow ip ospf databaseコマンドを見ると、見るたびに重複したルータIDのLSA Type1のAgeがリフレッシュされ、Seq#が増加していきます。
R1
R1#show ip ospf database OSPF Router with ID (1.1.1.1) (Process ID 1) Router Link States (Area 0) Link ID ADV Router Age Seq# Checksum Link count 1.1.1.1 1.1.1.1 2 0x8000005B 0x00A8AD 2 2.2.2.2 2.2.2.2 370 0x80000003 0x006BA0 2 Net Link States (Area 0) Link ID ADV Router Age Seq# Checksum 192.168.12.1 1.1.1.1 7 0x80000057 0x001B42 192.168.23.2 2.2.2.2 370 0x80000001 0x00168D Summary Net Link States (Area 0) Link ID ADV Router Age Seq# Checksum 192.168.34.0 1.1.1.1 3601 0x8000004E 0x00A7B8 R1#show ip ospf database OSPF Router with ID (1.1.1.1) (Process ID 1) Router Link States (Area 0) Link ID ADV Router Age Seq# Checksum Link count 1.1.1.1 1.1.1.1 1 0x8000005F 0x00A0B1 2 2.2.2.2 2.2.2.2 388 0x80000003 0x006BA0 2 Net Link States (Area 0) Link ID ADV Router Age Seq# Checksum 192.168.12.1 1.1.1.1 6 0x8000005B 0x001346 192.168.23.2 2.2.2.2 388 0x80000001 0x00168D Summary Net Link States (Area 0) Link ID ADV Router Age Seq# Checksum 192.168.34.0 1.1.1.1 3600 0x80000052 0x009FBC
そして、しばらくすると、以下のようにエリア内に重複したルータIDのルータがいるというエラーメッセージが表示されます。
*Mar 1 00:49:10.435: %OSPF-4-DUP_RTRID_AREA: Detected router with duplicate router ID 1.1.1.1 in area 0
R3のルータIDをもとの3.3.3.3に戻しておきます。
R3
router ospf 1 router-id 3.3.3.3
他のエリアでルータIDが重複
最後に他のエリアでルータIDが重複してしまっている場合です。エリア1のR4でルータIDをR1と同じ1.1.1.1に変更します。
R4
router ospf 1 router-id 1.1.1.1
他のエリアでルータIDが重複してしまっていても特に問題は起こりません。エリア外については、詳細なネットワーク構成を把握する必要がないからです。そのため、他のエリアでルータIDが重複してしまっているルータが存在していても、そのことを検出できません。そして、他のエリアにルータIDが重複したルータがいても、SPF計算には影響しません。
R1でshow ip ospf databaseコマンドやルーティングテーブルを見ても、ルータIDが重複していないときと同じように、何も問題はありません。
R1
R1#show ip ospf database OSPF Router with ID (1.1.1.1) (Process ID 1) Router Link States (Area 0) Link ID ADV Router Age Seq# Checksum Link count 1.1.1.1 1.1.1.1 227 0x800000F9 0x006B4C 2 2.2.2.2 2.2.2.2 1349 0x80000003 0x006BA0 2 3.3.3.3 3.3.3.3 188 0x80000002 0x009F6A 1 Net Link States (Area 0) Link ID ADV Router Age Seq# Checksum 192.168.12.1 1.1.1.1 232 0x800000F5 0x00DDE0 192.168.23.2 2.2.2.2 187 0x80000002 0x007822 Summary Net Link States (Area 0) Link ID ADV Router Age Seq# Checksum 192.168.4.0 3.3.3.3 29 0x80000001 0x001A95 192.168.34.0 3.3.3.3 29 0x80000001 0x006A31 R1#show ip route ospf O IA 192.168.4.0/24 [110/40] via 192.168.12.2, 00:00:31, FastEthernet0/0 O 192.168.23.0/24 [110/20] via 192.168.12.2, 00:22:28, FastEthernet0/0 O IA 192.168.34.0/24 [110/30] via 192.168.12.2, 00:00:31, FastEthernet0/0
他のエリアだったら、ルータIDが重複しても大丈夫なのです。でも、エリアが違っていたとしてもOSPFのルータIDは重複しないように注意してください。ルータIDの目的は、OSPFルータを識別することです。重複したルータIDの設定は、たとえ問題が起きないとしても望ましくはありません。
R4のルータIDをもとの4.4.4.4に戻しておきます。
R4
router ospf 1 router-id 4.4.4.4
まとめ
ポイント
- ルータIDによってOSPFルータを識別します。そのため、特に手動設定する場合は重複しないように注意してください。
- ルータIDが重複してしまったら・・・
- 同一ネットワーク:すぐに検出できます。
- 同一エリア内:重複したルータIDのLSA Type1がフラッピングします。
- 他のエリア:特に問題はないですが、重複したルータIDの設定はさけるべきです。
OSPFの仕組み
- OSPFとは? 初心者にもわかりやすくOSPFの特徴を解説
- OSPFの処理の流れ
- OSPFルータID ~OSPFルータを識別~
- OSPFルータのルータIDが重複してしまったら?
- OSPF ネイバーとアジャセンシー
- OSPF DR/BDR
- イーサネット上のshow ip ospf neighborの見え方
- OSPFネットワークタイプ ~OSPFが有効なインタフェースの分類~
- OSPF LSDBの同期処理
- 大規模なOSPFネットワークの問題点
- OSPFエリア ~エリア内は詳しく、エリア外は概要だけ~
- OSPFルータの種類
- OSPF LSAの種類
- OSPF エリアの種類
- OSPFの基本的な設定と確認コマンド [Cisco]
- インタフェースでOSPFを有効化することの詳細
- OSPF ループバックインタフェースのアドバタイズ
- OSPF Hello/Deadインターバルの設定と確認コマンド
- OSPFコストの設定と確認
- OSPFルータプライオリティの設定と確認コマンド
- OSPFネイバー認証の設定 ~正規のルータとのみネイバーになる~
- バーチャルリンク上のネイバー認証
- OSPF スタブエリアの設定と確認[Cisco]
- OSPF スタブエリアの設定例 [Cisco]
- OSPFデフォルトルートの生成 ~default-information originateコマンド~
- OSPFデフォルトルートの生成 ~スタブエリア~
- OSPF バーチャルリンク ~仮想的なエリア0のポイントツーポイントリンク~
- OSPF バーチャルリンクの設定と確認 [Cisco]
- OSPF バーチャルリンクの設定例 [Cisco]
- OSPF 不連続バックボーンのVirtual-link設定例
- OSPFのルート集約と設定
- OSPFルート集約の設定例(Cisco)
- OSPF ルート種類による優先順位
- OSPFネイバーの状態がExstartでスタックする原因
- OSPFパケットの種類とOSPFヘッダフォーマット
- OSPF Helloパケット
- OSPF DD(Database Description)パケット
- OSPF LSR(Link State Request)パケット
- OSPF LSU(Link State Update)パケット
- OSPF LSAck(Link State Acknowledgement)パケット
- OSPF 再配送ルートの制限 ~redistribute maximum-prefixコマンド~
- OSPFでのディストリビュートリスト/プレフィクスリストの動作
- OSPFでのディストリビュートリストの設定例 Part1
- OSPFでのディストリビュートリストの設定例 Part2
- OSPFのLSAフィルタの概要 ~LSAタイプ3/タイプ5をフィルタ~
- LSAタイプ3のフィルタ設定例
- LSAタイプ5のフィルタ設定例
- 3階層モデルLANのOSPFルーティング
- 演習:実践的なOSPFルーティング Part1:OSPFの基本設定
- 演習:実践的なOSPFルーティング Part2:デフォルトルートの生成
- 演習:実践的なOSPFルーティング Part3:スタブエリア
- 演習:実践的なOSPFルーティング Part4:ルート集約
- 演習:実践的なOSPFルーティング Part5:トラブルシューティング
- OSPF 設定ミスの切り分けと修正 Part1
- OSPF 設定ミスの切り分けと修正 Part2
- OSPF 設定ミスの切り分けと修正 Part3
- OSPF 設定ミスの切り分けと修正 Part4
- OSPF 設定ミスの切り分けと修正 Part5
- OSPF 設定ミスの切り分けと修正 Part6
- Cisco OSPFv3 for IPv4の設定と確認コマンド
- Cisco OSPFv3 for IPv4の設定例
- OSPFv3の設定例 [Cisco]
- OSPFv3 ルート集約の設定例 [Cisco]