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デフォルトゲートウェイの冗長化
他のネットワークへパケットを送信するときには、まず、デフォルトゲートウェイへと転送します。もし、デフォルトゲートウェイとなるルータやレイヤ3スイッチに障害が発生すると、他のネットワークへの通信ができなくなってしまいます。そこで、デフォルトゲートウェイとなるルータやレイヤ3スイッチの冗長化が必要です。
特にサーバにとってのデフォルトゲートウェイの冗長化はとても重要です。多くのクライアントにサービスを提供するサーバのデフォルトゲートウェイに障害が発生すると、その影響がとても大きくなるからです。
単純にルータ/レイヤ3スイッチを追加するだけではダメ
ただ、単純にデフォルトゲートウェイとして複数のルータやレイヤ3スイッチをネットワーク上に接続すればよいというわけではありません。デフォルトゲートウェイの設定は、デフォルトルートをスタティックルートとして設定しているからです。スタティックルートの設定は、ネットワークの構成の変化に応じて自動的に書き換わることがありません。そのため、デフォルトゲートウェイとして設定したルータに障害が発生しても、PCやサーバ側のデフォルトゲートウェイの設定は自動的に書き換わりません。その結果として、いつまでもダウンしたルータへとパケットを転送してしまうことになります。
以下の図のネットワーク構成を例に取り、デフォルトゲートウェイの冗長化について考えます。PCと同一ネットワーク上にデフォルトゲートウェイを冗長化するためR1とR2を接続しています。
PCのデフォルトゲートウェイのIPアドレスとして、R1のIPアドレス192.168.1.1を設定しています。PCから他のネットワークへパケットを送信するときは、R1へと転送し、R1がルーティングします。
そして、R1 Fa0/0に何らかの障害が発生したとします。ところが、PCのデフォルトゲートウェイの設定はスタティックルートの設定と同じです。PCはR1に到達できなくなったことはわかりませんし、デフォルトゲートウェイの設定が自動的にR2に変わるわけでもありません。PCは他のネットワーク宛てのパケットは、ずっとR1へと転送しようとしてしまい、他のネットワークとの通信はできなくなってしまいます。
PCが冗長化したR2を利用できるようにするためには、PCのデフォルトゲートウェイの設定をやり直して、R2の192.168.1.2のIPアドレスを指定する必要があります。せっかく、デフォルトゲートウェイを冗長化したのですが、その切り替えは各PC側で再度デフォルトゲートウェイの設定をやり直すというのでは、運用面の負荷が大きく、冗長化したメリットがあまり感じられなくなってしまいます。
デフォルトゲートウェイの冗長化プロトコル(FHRP : First Hop Redundancy Protocol)
そこで、デフォルトゲートウェイの冗長化を行うときには、単に複数のルータを準備するだけではなく、さらに以下のようなデフォルトゲートウェイ冗長化のプロトコルを利用することがポイントです。
- HSRP(Hot Standby Router Protocol)
- VRRP(Virtual Router Redundancy Protocol)
- GLBP(Gateway Load Balancing Protocol)
これらのデフォルトゲートウェイ冗長化プロトコルはまとめてFHRP(First Hop Redundancy Protocol)とも呼びます。First HopとはPCやサーバから見て、最初のルータ、つまりデフォルトゲートウェイを意味します。
これらのFHRPの仕組みの基本的なコンセプトはPCやサーバにとって複数のルータを仮想的に1つであるかのように見せることにあります。デフォルトゲートウェイとなる複数のルータをグループ化して、仮想的に1つの仮想ルータを構成します。そして、PCやサーバのデフォルトゲートウェイのIPアドレスとして、仮想ルータのIPアドレスを設定します。障害発生時の切り替えは、ルータ間で制御します。PCやサーバは、物理的なルータの障害を意識することなく継続して他のネットワーク宛てのパケットを転送することができます。
なお、「仮想ルータ」としていますが、複数のルータそのものをグループ化しているわけではありません。デフォルトゲートウェイとして動作するインタフェースをグループ化して、「仮想ルータ」としているだけです。
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