スタティックルートをバックアップルートにする

スタティックルートを利用すると、障害が発生してネットワーク構成が変化してもルーティングテーブルは自動的に更新されません。ネットワーク構成が変わってしまったら、スタティックルートの設定も変更しなければいけなくなってしまいます。それではとても面倒です。

スタティックルートを使っていても、工夫すると、ネットワーク構成の変化に応じて、ルーティングテーブルを更新することができます。そのための設定がフローティングスタティックルートです。

フローティングスタティックルートの例

スタティックルートを障害発生時のバックアップルートとして自動的にルーティングテーブルを登録されるようにできます。そのようなスタティックルートをフローティングスタティックルートと呼びます。フローティングスタティックルートの設定自体はシンプルです。スタティックルートのアドミニストレイティブディスタンはデフォルトで1ですが、その値を大きく設定すればよいだけです。設定する値は、利用しているルーティングプロトコルよりも大きい値とします。

拠点間を接続するWANのバックアップとして、ISDNなど従量課金のWANサービスを利用しているケースでフローティングスタティックルートの設定を行うことが多いです。たとえば、以下のようなネットワーク構成です。

図 フローティングスタティックルート ネットワーク構成例

拠点1と拠点2を専用線で接続して、通常は専用線経由で拠点間の通信を行います。そして、そのバックアップとしてISDNを利用しているという例です。

拠点間接続のバックアップ回線としてISDNを用いるようなネットワーク構成は、2000年代の前半ぐらいまでよく見かけました。

専用線経由で通信するために、各拠点のルータでは専用線上でルーティングプロトコルを利用してルーティングテーブルにお互いの拠点のルートを登録します。ルーティングプロトコルは、定期的にルーティングプロトコルのパケットを送受信してしまいます。ISDN上でルーティングプロトコルを利用すると、ISDN回線を常時接続することになり通信料金が常にかかってしまいます。そのため、ISDN上ではルーティングプロトコルを利用しません。

専用線に障害発生したときのバックアップルートとしてフローティングスタティックルートの設定を行います。アドミニストレイティブディスタンスを専用線で利用しているルーティングプロトコルよりも大きい値で、お互いの拠点のルート情報を設定します。

利用しているルーティングプロトコルがRIP(アドミニストレイティブディスタンス120)の場合、R1とR2でのフローティングスタティックルートの設定は、次のように行います。

R1
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ip route 192.168.2.0 255.255.255.0 192.168.0.6 125
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R2
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ip route 192.168.1.0 255.255.255.0 192.168.0.5 125
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Ciscoでの設定です。

お互いの拠点のルート情報のネクストホップをISDNのインタフェースのIPアドレスとしています。そして、スタティックルートの設定の最後の「125」がアドミニストレイティブディスタンス値でRIPの120よりも大きい値にしています。

ルーティングテーブルには、専用線経由のルーティングプロトコルで学習したルートのみが登録されています。フローティングスタティックルートの設定は、ルーティングテーブル上には現れずに、ルーティングプロトコルのルートの下に隠れています。

図 フローティングスタティックルート 正常時

専用線に障害が発生すると、専用線経由で学習しているRIPのルート情報が削除されます。すると、隠れていたフローティングスタティックルートがルーティングテーブルに登録されて、ISDN経由で通信を継続できます。障害時に隠れていたスタティックルートが浮かび上がってくるようなイメージなので「フローティング」スタティックルートと呼ばれています。

図 フローティングスタティックルート 障害発生時
例としてISDNを利用したネットワーク構成をあげているだけです。フローティングスタティックルートは、ISDNを利用したネットワーク構成だけでなく、どのようなネットワーク構成でも利用できます。
例として、それぞれの拠点でルータが1台ずつのネットワーク構成で考えていますが、拠点内には他にもルータやレイヤ3スイッチが存在することが多いでしょう。その場合、フローティングスタティックルートを再配送する設定も必要になります。

以下の記事は、フローティングスタティックルートの設定例です。

IPルーティングのキホン